【東京カセットテープ完全ガイド】CityNomixが巡る、珠玉の一本と出会うための探訪記

失われた磁気の記憶を求めて – 東京カセットテープ探訪の旅へ

PhotomoのCityNomixです。デジタルマーケティングの喧騒の中で日々数字とロジックを追いかける僕が、ふと立ち止まり、温もりある「何か」に惹かれる瞬間があります。その「何か」の正体は、カセットテープ。あの小さなプラスチックの箱に収められた、磁気テープの揺らぎです。

この旅の始まりは、C.Eというファッションブランドの世界観に触れたことでした。彼らが発信するカルチャーの断片に、かつて夢中になったミックステープの記憶が重なったのです。学生時代に愛用したウォークマンはとうに手元になく、どうせなら良い音で、とフランス生まれのカセットプレーヤー「we are rewind」を手にした日から、僕の宝探しの旅は始まりました。しかし、インターネットの海は広大すぎて、心惹かれる一本を見つけ出すのは至難の業。だからこそ、僕は自分の足で東京の街を歩き、その「場」の空気ごと音楽を体験することに決めたのです。

この記事は、そんな僕が実際に巡った東京のカセットテープ・レコードショップの包括的なガイドであり、僕自身の探訪の記録です。閑静な住宅街に佇む専門店の静謐さ、カルチャーの交差点で圧倒的な物量を誇る巨大ストアの熱気、そして歴史ある街の片隅で脈々とカルチャーを守り続ける老舗の魂。それぞれの店が持つ個性的な魅力を、僕自身の体験談、時には「買い逃した!」という失敗談も交えながら、誠実にお伝えします。これは単なる店舗リストではありません。あなたを、カセットテープという名のタイムマシンに乗って、音楽の記憶を巡る旅へと誘う、Photomoならではのカルチャー・ジャーナルです。さあ、一緒に東京の街へ繰り出しましょう。

デジタルの時代に、なぜ僕らはカセットテープに惹かれるのか?

ストリーミングサービスが音楽の聴き方を根本から変えた現代において、「なぜ、わざわざカセットテープなのか?」という問いは、至極もっともな疑問でしょう。クリック一つで世界中の音楽にアクセスできる利便性を、僕自身もデジタルマーケターとして享受し、その恩恵を疑うものではありません。しかし、それでもなお、僕たちがカセットテープという不便で、少し気まぐれなメディアに回帰するのはなぜなのでしょうか。この探訪の旅を通じて、僕なりに見えてきた答えがいくつかあります。

第一に、「モノとしての所有欲」と「フィジカルな体験」の価値です。データとしての音楽は、僕たちのデバイスの中に雲のように漂っていますが、手で触れることはできません。一方でカセットテープは、ずしりとした重みがあり、ジャケットアートをじっくりと眺め、ライナーノーツを読み解く喜びがあります。渋谷の「Oddtape」で、デジタル配信されているBillie Eilishの『Tiny Desk Concert』のカセット版を見つけた時の感動は、まさにこのフィジカルな所有欲が満たされた瞬間でした。プレーヤーにセットし、「ガチャン」という音とともに再生が始まる。テープが回転するのを目で追い、A面が終われば自分の手でB面にひっくり返す。この一連の儀式的な行為は、音楽と一対一で向き合うための、濃密な時間を作り出してくれます。それは、バックグラウンドで音楽を「消費」するのとは全く異なる、「体験」としての音楽との関わり方なのです。

第二に、「キュレーション」と「セレンディピティ(偶然の出会い)」の魅力です。僕たちが今回巡った店は、それぞれが独自の哲学を持つ、優れたキュレーターでした。中目黒の「Waltz」の店主は、元Amazonというデジタル畑の出身でありながら、その審美眼で選び抜かれた一本一本に、Instagramや手書きのPOPで愛情のこもった「推薦文」を添えます。それは、アルゴリズムが提示する「あなたへのおすすめ」とは全く質の異なる、血の通ったレコメンドです。渋谷の「Manhattan Records」がかつてMIX CDで多くのリスナーの耳を育てたように、その「キュレーションの精神」は、棚の並べ方一つ、スタッフの一言に今も脈々と受け継がれています。膨大な在庫を誇るタワーレコードやディスクユニオンでさえ、その土地柄やバイヤーの個性が色濃く反映され、思いがけない宝物との出会いを演出してくれます。自分の足で棚を「ディグる」行為は、予測不能な発見の連続であり、自分の音楽の世界を予期せぬ方向へ広げてくれる、スリリングな冒険なのです。

第三に、「ノスタルジーと新たな文脈」です。「Waltz」で手に入れた『トップガン』や『カクテル』のサウンドトラックは、80年代の熱気を真空パックしたタイムカプセルのようでした。僕のような世代にとっては懐かしい記憶を呼び覚ます装置であり、若い世代にとっては、レトロで新しいカルチャーの象徴として映るでしょう。このように、カセットテープは世代を超えたコミュニケーションの媒介となり得ます。過去のメディアが、現代のテクノロジーやファッションと結びつくことで、全く新しい文脈と価値を獲得する。このダイナミズムこそ、カルチャーの面白いところです。

最後に、「コミュニティと知識の共有」という側面も見逃せません。「Oddtape」の店員さんとの何気ない会話から、自分が知らなかったバンドへと導かれたように、レコードショップは単なる売買の場ではなく、音楽への愛と知識を分かち合うコミュニティハブとして機能しています。そこには、同じ情熱を共有する人々が集い、熱心に棚を眺め、時には情報を交換する姿があります。このアナログな繋がりこそ、デジタル社会で希薄になりがちな、人間的な温もりを僕たちに与えてくれるのではないでしょうか。

結局のところ、僕たちがカセットテープに惹かれるのは、それが単なる音楽再生メディア以上の「何か」を内包しているからです。それは、モノであり、体験であり、発見であり、コミュニケーションのツールでもある。この多層的な魅力こそが、僕たちをこの小さな磁気テープの旅へと駆り立てるのです。

【本編】東京カセットテープ・レコードショップ巡り:珠玉の一本を求めて

さて、ここからは僕が実際に東京の街を歩き、撮り、そして書き留めた探訪の記録です。それぞれの店が持つ個性的な世界観と、そこで僕が体験したリアルな物語を、あなたと分かち合いたいと思います。

 

1. waltz(中目黒):静謐な空間で出会う、キュレーションの極致

Walts (ワルツ) 看板 中目黒 カセットテープ専門店
中目黒のカセットテープ専門店「Walts」の店名看板。

僕のカセットテープ探しの旅が、実質的に始まった場所。それが中目黒の「Waltz」です。東急東横線の駅から少し歩いた、閑静な住宅街の一角。コンクリート打ちっ放しの壁にミニマルなロゴが映えるその店構えは、まるで現代アートのギャラリーのよう。道行く人の目を惹きつけながらも、静かにその場所にあるべきものとして存在している、そんな佇まいです。

一歩足を踏み入れると、そこはまさにカセットテープの聖域。整然と、しかし温かみのある木製の棚に、古今東西の音楽が詰まったカセットたちが息づいています。派手な装飾は一切なく、隅々までこだわり抜かれたミニマルな空間は、時間を忘れてじっくりと音楽を選ぶための心地よい静寂に満ちています。BGMとして流れるのは、店主自らがセレクトしたカセットの音。その選曲センスがまた素晴らしく、訪れるたびに新たな音楽への扉を開けてくれます。

Waltzの真髄は、店主の審美眼によって選び抜かれた、その圧倒的なセレクションにあります。特に注目すべきは、Instagramと連動した新譜の紹介。単なるデータではなく、音楽への深い愛情が滲み出る「推薦文」として発信される情報は、僕のようなデジタルマーケターから見ても非常に巧みです。その言葉に心を動かされ、「欲しい!」と思った時には既に完売、ということもしばしば。特にロックやオルタナティブのライブ盤の人気は絶大です。店内に足を運べば、その推薦文が手書きのPOPとして添えられており、それを読みながらカセットを手に取ると、もう抗うことはできません。

この日も、僕はここでいくつかの宝物を手にしました。RAMONESやNirvanaの生々しいライブ音源、学生時代に聴き込んだMr.BIGやブルース・スプリングスティーンの名盤、そして正規では入手困難とされるFrank OceanやMac Millerのレア盤。中古セレクションも meticulously(細心の注意を払って)に整理されており、探していた『トップガン』のサントラとの再会も果たせました。Waltzは単に商品を「買う」場所ではなく、音楽と「出会う」体験そのものを提供してくれる場所。この感覚こそ、Photomoが伝えたい「体験」そのものなのです。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
アナログの揺らぎに魅せられて。中目黒Waltzで見つける、カセットテープと音楽の新たな旅路

 

2. Tower Records 渋谷店:カルチャーの交差点に聳える、音楽の巨大な図書館

タワーレコード渋谷店の外観
タワーレコード渋谷店の夕方の外観。音楽の聖地は昼夜問わず賑わう。

中目黒のWaltzが店主の審美眼が光る「セレクトショップ」だとすれば、渋谷の象徴的存在であるタワーレコード渋谷店は、メジャーからインディー、新譜から旧譜まで、あらゆるジャンルを網羅する「巨大な音楽の図書館」と言えるでしょう。特に近年、再評価著しいカセットテープの品揃えは、東京における最重要ハブの一つ。6階の「Tower Vinyl Shibuya」に足を踏み入れると、フロアの半分近くを占めるスペースに、新品と中古のカセットテープが熱気を帯びて並んでいます。

壁一面を埋め尽くすかのような新品カセットテープの棚は、まさに壮観の一言。テイラー・スウィフトのような最新ポップスから、リンキン・パークやデヴィッド・ボウイといったロックのレジェンド、デ・ラ・ソウルのようなヒップホップ・クラシック、そして山下達郎やスピッツといったJ-POPの名盤まで、その多様性は他の追随を許しません。この圧倒的な物量の中から、自分だけの一本を探し出す行為は、まさに宝探しそのものです。

この日の僕には明確なミッションがありました。それは、Waltzで売り切れていたRage Against The Machineのライブカセットの捜索。残念ながらカセットは見つかりませんでしたが、諦めきれずに同フロアのレコードコーナーへ向かうと、なんと買い逃していたレコードストアデイ限定のライブ盤アナログレコードを発見!思わず心の中で快哉を叫びました。こういう予期せぬ出会いがあるから、タワレコ巡りはやめられないのです。

さらに店内を散策すると、Oasisの再集結を祝う特設展示や、山下達郎さんの名盤『Melodies』のカセット発売を記念したポップアップストアなど、常に音楽ファンを飽きさせない仕掛けが満載。特に山下さんの作品はサブスクリプションで聴けない楽曲も多いため、フィジカルメディアで所有する喜びは格別です。限定特典のピンバッジが手に入るガチャガチャまであり、ついつい挑戦してしまう。こうしたエンターテインメント性も、タワレコ渋谷の大きな魅力です。時に物欲との静かな戦いを強いられますが、それもまた一興。膨大な情報と音楽の渦の中から、自分だけの宝物を釣り上げる喜びを、ぜひ体験してみてください。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
【東京・渋谷】カセットテープの聖地タワーレコード渋谷探訪記!レア盤発掘と音楽体験の深淵へ

3. Oddtape(渋谷PARCO):ファッションとカルチャーが交差する、新たな発見の宇宙

カセットテープ専門店「Oddtape」の白を基調としたモダンな外観。大きな窓からは店内に並ぶカセットテープが見える。
音楽好きが集う、カセットテープ専門店「Oddtape」。

渋谷の喧騒の中で、ひときわモダンな存在感を放つ新生渋谷PARCO。その5階に、今回の旅で最も衝撃的な出会いを果たした店の一つ、「Oddtape」はあります。エルメスの香水が漂う1階、マルジェラやジュンヤワタナベが並ぶ2階をエスカレーターで上がり、ファッションとカルチャーが混じり合うフロアの奥に、その店は静かに佇んでいました。白を基調としたミニマルなファサードの向こうには、壁一面を埋め尽くすカセットテープの宇宙が広がっています。

一歩店内に足を踏み入れた瞬間に息を呑みました。木製の棚に、ジャンルごとに細心の注意を払って整理されたテープがぎっしりと、しかし整然と並ぶ光景は、もはやアートインスタレーションの域。特に「新譜」におけるセレクションの深さと幅広さは、Waltzやタワーレコードとも遜色ない、いや、ある側面では凌駕しているかもしれないと感じさせるほどの衝撃でした。オルタナティブ、インディーポップ、Lo-Fiヒップホップからジャズ、韓国のインディーバンドまで、そのジャンルの垣根の越え方は見事です。

この店の素晴らしさは、品揃えだけではありません。僕がNirvanaのライブ盤を手に、自分の購入履歴と見比べていると、「何かお探しですか?試聴もできますよ」と穏やかな声が。このデジタル時代に「試聴」という、なんと温かい響き。この店員さんのホスピタリティあふれる一言で、Oddtapeがただ商品を売る場所ではなく、音楽への愛と知識を分かち合うコミュニティのような空間なのだと直感しました。

その言葉に甘えて宝探しを続けると、ついにその時は訪れます。世界的スター、Billie EilishのNPR『Tiny Desk Concert』のライブ音源カセットを発見。さらに、ブルックリンのインディーバンド「Bedridden」のデビュー作を、「The Smashing Pumpkinsをリスペクト」という手書きのPOPの一文に惹かれて手に取りました。世界的スターの貴重音源と、まだ見ぬインディーバンドのデビュー作。この対照的な2本との出会いこそ、カルチャーの交差点・渋谷の専門店ならではの醍醐味です。アルゴリズムでは決して辿り着けない、偶然と人の温もりがもたらす発見が、ここにはあります。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
渋谷の奇妙な宝探し:新生PARCOで出会った、僕だけの一本を巡るカセットテープ専門店の旅

 

4. HMV record shop 渋谷:中古盤の海で幻を追う、ディガーの聖地

HMV record shop 渋谷の外観。ビルの一階にあり、ガラス張りの壁に店名ロゴが描かれている。
渋谷のレコードの聖地、HMV record shop。

渋谷でのミュージックハンティングにおいて、決して素通りできない聖地がもう一つあります。井の頭通りに構える「HMV record shop 渋谷」です。ビルの少し奥まった場所にひっそりと佇むその入口は、一見すると見過ごしてしまいそうですが、扉の向こうには時を超えた音楽の記憶が渦巻いています。新品が4割、中古が6割という体感の品揃えで、特に中古盤の充実度においては、渋谷でも随一ではないでしょうか。

この日、僕が訪れると、Oasisの再結成ツアーの熱狂を反映したかのような特設コーナーが目の前に広がっていました。国内盤限定のカラーヴァイナルがずらりと並ぶ光景に、ファンとして心が躍ります。これだけ大々的に展開されているなら、中古盤にも期待が持てるはず。逸る気持ちを胸に、インディー・オルタナティブの棚へと向かいました。

「ディグる」という行為の醍醐味は、指先に伝わるジャケットの感触、鼻をかすめる古い紙の匂い、そしてお目当ての一枚を見つけた時の心臓が跳ね上がるような感覚にあります。そして、その瞬間は訪れました。『Little by Little / She is Love』の12インチシングル。しかし、そのプライスタグを見て現実に引き戻されます。「¥16,500」。B面に収録されたThe Whoのカバー「My Generation」がプレミア価格の理由です。さらに隣には3万円超えの『The Masterplan』のアナログ盤。出会いはある、しかし必ずしも手に入れられるとは限らない。これもまた、レコードハンティングのリアルな一面です。ため息とともに棚に戻す僕の姿は、多くのディガーが経験したことのある光景でしょう。

気を取り直してカセットテープコーナーへ。1階奥の壁一面に並ぶ光景は壮観ですが、品揃えはJ-POPが充実している印象。既にOddtapeで満足のいく買い物をした後だったので、この日は食指が動きませんでした。2階のHip-HopやTechnoに特化したカセットコーナーもチェックしましたが、収穫はゼロ。しかし、不思議と落胆はありませんでした。Oasisのレア盤に胸をときめかせ、Nujabesの特設コーナーに想いを馳せる。たとえ手ぶらで店を出ることになったとしても、その過程で得られるインスピレーションこそが、何よりの収穫なのです。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
渋谷HMV レコード探訪記:中古盤とカセットの山からOasisの幻を追う

 

5. Manhattan Records(渋谷):ヒップホップのグルーヴが脈打つ、ストリートの聖地

渋谷にある老舗レコード店「マンハッタンレコード」の外観。特徴的な赤い看板が目印となっている。
ヒップホップの聖地、渋谷・マンハッタンレコード。

渋谷センター街を少し外れた宇田川町。日本のストリートカルチャーが生まれ、育まれてきたこのエリアの中心に、何十年も前から鎮座するのが「Manhattan Records」です。あのアイコニックな赤い看板は、多くのDJやアーティスト、そして僕のような音楽ファンにとっての灯台のような存在。ここが単なるレコード屋ではないことは、ドアを開けた瞬間にわかります。心地よい低音、ビニールと紙の混じり合った匂い、そして音楽への情熱に満ちた空気。そのすべてが独特のグルーヴを生み出しているのです。

1階は新品レコードが中心ですが、見逃せないのがオリジナルアパレル。ロゴをあしらったパーカーやキャップは、カルチャーへの敬意を示すアイデンティティの表明として長年愛されています。しかし、僕の真の目的は2階にあります。少し急な階段を上ると、空気がさらに濃密になるのを感じます。そこは、時間というフィルターを通過してきた中古レコードたちが、新たな持ち主を待つ宇宙。そして階段を上がってすぐ右手、そこに僕が探していたカセットテープのコーナーがありました。

以前訪れた時よりも明らかにスペースが拡張されており、アナログ回帰の波がカセットにも及んでいることをこの老舗が捉えている証拠です。木製の棚には新品から中古まで、ヒップホップとR&Bを中心としたテープがびっしりと並び、「Hip-Hop, R&B, etc…」と書かれた手書きのポップが温かみを添えています。90年代のゴールデンエイジの名盤から最新インディーまでが混在する棚をディグる時間は、至福のひとときです。

しかし、この聖地は僕に一つの教訓を与えてくれました。映画のサントラコーナーで、アイザック・ヘイズが手掛けた『シャフト』のテープを発見したのです。一瞬手が伸びたものの、「また今度でいいか」と棚に戻してしまった。店を出た数分後、激しい後悔が襲いました。「なぜ買わなかったんだ…」。そう、ミュージックハンティングは一期一会。心が動いたその瞬間に、迷わず手に取るべきだったのです。この失敗談こそ、僕があなたと共有したい、最もリアルな体験かもしれません。次こそは、この赤い看板の下で、運命の出会いを逃さないと心に誓うのでした。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
渋谷の聖地マンハッタンレコードでカセットテープを探す旅|ヒップホップのグルーヴと一期一会の出会い

 

6. ディスクユニオン 御茶ノ水駅前店:アカデミックな街で掘り起こす、ロックの深層

disk union御茶ノ水店の外観。駅直結ビルの2階にある店舗の様子。
JR御茶ノ水駅直結、disk union御茶ノ水店の店舗外観。

渋谷の喧騒から少し離れ、学生と古書店の街、御茶ノ水へ。この街のディスクユニオンには、他とは少し違う空気が流れています。僕が訪れたのは、東京メトロ新御茶ノ水駅直結という抜群のロケーションにある「御茶ノ水駅前店」。オールジャンルを扱う店舗ですが、神保町に近い土地柄か、どこかアカデミックな雰囲気が漂い、知的好奇心をくすぐる音楽が眠っていそうな期待感を抱かせます。

僕の流儀は、まず新品コーナーからチェックすること。将来のレア盤は、リリース直後の今が最も手頃だからです。そしてこの日、Oasisの名盤『Time Flies…』の7インチ紙ジャケ仕様・日本完全生産限定盤を発見。幸先の良いスタートに気を良くし、いよいよ中古CDの迷宮へ。そこで僕は、ディスクユニオンの真髄を再発見することになります。

Oasisの棚を丹念に見ていくうちに、目に飛び込んできたのは見慣れないジャケットの数々。そう、ブートレグ(海賊盤)です。公式盤では味わえない、生々しい熱量をパッケージしたライブ音源との出会いこそ、ディスクユニオンの大きな楽しみの一つ。迂闊にもそのことを忘れかけていました。そして、その時、僕の目はある一枚に釘付けになりました。黒いジャケットに白抜きで『JILY』。Oasisのブートレグの中でも屈指の名盤として名高い伝説の一枚、その高音質リマスター盤です。しかも収録地はカーディフ。奇しくもOasisの(架空の)再結成ツアーが始まる場所と同じ。これは運命以外の何物でもありません。迷わず手に取りました。

さらにメインロード公演のコンプリート版まで発見し、興奮は最高潮に。レコードコーナーでは空振りに終わりましたが、それでいいのです。公式盤の探求から一歩踏み込み、ブートレグという深淵を覗き込むスリル。これもまた、ディスクユニオンが提供してくれる、奥深い音楽体験なのです。時にはグッズコーナーで3万円超えのKnebworth公演ジャージに目を見張り、自分の懐と相談する。そんな人間臭いドラマも、この場所の魅力と言えるでしょう。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
御茶ノ水ディスクユニオンでOasisレア盤探訪記 – 伝説のブートレグ『JILY』と運命の再会

 

7. ディスクユニオン Jazz TOKYO:ジャズの魂が眠る、専門店の神髄

東京・御茶ノ水、ディスクユニオンJazz TOKYOの店舗外観。青い看板。
東京のジャズがここに。ディスクユニオンJazz TOKYOの外観。

御茶ノ水には、もう一つ訪れるべき聖地があります。それは、僕が個人的に「東京のJAZZレコードを探すなら、ここを外すことはできない」と確信する場所、「ディスクユニオン Jazz TOKYO」です。明治大学リバティタワーのすぐそば、白い建物に映える黒と赤のロゴは、専門店のオーラを放っています。階段を上る壁にはカマシ・ワシントンやケイティ・ジョージのポスター。扉を開ける前から、もうジャズの世界は始まっているのです。

この店の攻略法は、ただ一つ。真っ先に新着コーナー(New Arrivalコーナー)へ向かうこと。断言しますが、ここでの立ち回りがその日の収穫を全て決めます。経験豊富な常連さんは、必ずここからチェックを始めます。なぜなら、その物量が尋常ではないからです。この日も棚に4列、ボックスで6箱もの新着レコードが並んでいました。これは、ロンドンのレコードショップでも滅多にお目にかかれない光景です。この圧倒的な物量は、ここにレコードを売りに来るお客さんの質の高さを物語っています。愛情込めて聴き込まれた盤が、次の聴き手へとバトンを渡される場所。時には特定のアーティストのコレクションが一挙に放出されることもあり、まさに千載一遇のチャンスが眠っているのです。

新着コーナーの探索を終えたら、壁に目を移してみてください。そこには、歴史に名を刻むジャズの名盤のオリジナル盤がずらりと並び、壮観な光景が広がっています。また、レコードだけでなくCDの品揃えも都内随一。さらに、店内に併設された「Soul Blues館」も、小さいながらツボを押さえたセレクションで、ソウルやブルース好きならずとも必見です。この日は残念ながら「これぞ!」という一枚には出会えませんでしたが、それもまたレコード探しの醍醐味。いつだって最高の出会いは予測不可能。この膨大なジャズの海に身を委ね、自分だけの一枚を掘り当てる喜びは、何物にも代えがたい体験です。

この場所でのより詳細な体験については、こちらの記事で詳しく語っています。
東京のJAZZはここに眠る。ディスクユニオン Jazz TOKYO 徹底探訪記

 

今回訪れた東京のカセットテープ&レコードショップまとめ

今回の旅で巡った、個性豊かな7つの聖地。それぞれの特徴を一覧にまとめました。あなたの好みに合わせて、次の冒険の目的地を選んでみてください。

 

名称公式リンク住所特徴
waltz公式サイト東京都目黒区中目黒4-15-5中目黒の閑静な住宅街に佇むカセットテープ専門店。店主の審美眼が光る洗練されたセレクションと、ミニマルで静謐な空間が魅力。
タワーレコード渋谷店公式サイト東京都渋谷区神南1-22-14渋谷のランドマーク。圧倒的な物量を誇る「音楽の図書館」。メジャーからインディーまで幅広い品揃えで、カセットテープの在庫も東京最大級。
Oddtape公式サイト東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 5F渋谷PARCO内にある、新譜に強いカセットテープ専門店。インディーやオルタナティブなど、エッジの効いたセレクトと親切な接客が光る。
HMV record shop 渋谷公式サイト東京都渋谷区宇田川町36-2 ノア渋谷 1F/2F中古盤の品揃えが非常に充実しているレコードショップ。特に洋楽ロックやインディー系が豊富で、「ディグる」楽しさを満喫できる。
Manhattan Records公式サイト東京都渋谷区宇田川町10-1 木田ビル日本のヒップホップ・R&Bシーンを支える聖地。専門性の高いセレクションと、カルチャーが根付いた独特のグルーヴが魅力。
ディスクユニオン 御茶ノ水駅前店公式サイト東京都千代田区神田駿河台4-3 新お茶の水ビル2Fアカデミックな雰囲気が漂うオールジャンル店。公式盤だけでなく、ブートレグなどマニアックな音源との出会いも期待できる。
ディスクユニオン Jazz TOKYO公式サイト東京都千代田区神田駿河台2-1-45 ニュー駿河台ビル2Fジャズ専門店の最高峰。特に圧倒的な物量を誇る「新着コーナー」は必見。都内随一の品揃えで、ジャズファンなら一度は訪れるべき場所。

結論:磁気テープが紡ぐ、僕らだけのサウンドトラック

東京という巨大な都市を、カセットテープという一本の線で結んでみた今回の旅。中目黒の静謐な空間から始まり、渋谷の混沌としたカルチャーの交差点を抜け、御茶ノ水の知的な探求の迷宮へと至る。それぞれの店は、全く異なる表情を持ちながらも、一つの共通した価値を僕に示してくれました。それは、「人の手によるキュレーション」と「予測不可能なセレンディピティ」の尊さです。

店主やバイヤーの情熱が込められたセレクト、商品に添えられた手書きのPOP、そして「これを探しているなら、こっちも好きかもしれない」と繋がる偶然の出会い。これらは、どれだけ最適化されても、デジタルなアルゴリズムでは決して代替できない、極めて人間的な体験です。カセットテープを探す旅は、単に過去の音楽メディアを買い集める行為ではありません。それは、無数の音楽の記憶が渦巻く広大なアーカイブの中から、自分だけの物語を編集していく、創造的な行為なのです。

手に入れた一本のカセットには、音楽だけでなく、その日の天気、店の匂い、店員との会話、そして発見の瞬間の高揚感までが記録されています。プレーヤーで再生するたびに、その記憶が蘇る。それは、僕だけのパーソナルなサウンドトラック。このガイドを手に取ってくれたあなたが、次の週末、ふらりと街に出て、自分だけの珠玉の一本と出会えますように。さあ、あなただけのサウンドトラックを探す旅に出てみませんか?きっと、忘れられない発見が待っているはずです。

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