正直に告白しよう。私は長い間、Airaloの熱烈な信者だった。
デジタルマーケティングという仕事柄、新しいツールには目がないし、世界中の都市を渡り歩く生活において、物理的なSIMカードを差し替える手間から解放してくれたeSIMは革命だった。アプリのUIは洗練されているし、価格も手頃。「とりあえず旅に出るならAiraloを入れておけば間違いない」。友人にも、ブログの読者にも、そう勧めてきた。
しかし、2024年から2025年にかけての旅で、私のその確信は揺らぎ、そして崩れ去った。
ロンドンの曇天の下、ショーディッチの雑踏でGoogleマップが開かずに立ち尽くした時。ハワイの燦々と降り注ぐ太陽の下、ビーチで「データ残量ゼロ」の通知に絶望した時。私は気づいてしまったのだ。既存の定番eSIMサービスが抱える「2つの決定的なストレス」に。
それは「容量の壁」と「期限の壁」だ。
今、私のスマートフォンには、かつての相棒の姿はない。代わりにインストールされているのは、Holafly(オラフライ)とRoamless(ロームレス)という2つのアプリだ。なぜ私は乗り換えたのか? そして、なぜこの「二刀流」こそが、現代のトラベラーにとって最強の最適解なのか。私の失敗談と、そこから得た教訓をシェアしたい。

1. ハワイの悲劇と「無制限」の解放感:Holaflyとの出会い
話は2024年のハワイ、ワイキキビーチに遡る。久しぶりの休暇、完璧な天気。目の前の美しいサンセットをInstagramのストーリーに上げようとしたその瞬間だった。
スマホの画面に無機質な通知が表示された。「データ残量が残り100MBです」。
その瞬間、リラックスした気分は吹き飛び、脳内で計算が始まった。「あと3日ある。地図を見る分を残して、インスタは我慢するか? ホテルに戻るまで機内モードにするか?」。この「ギガを気にする」というメンタルコストは、想像以上に旅の質を下げる。私たちは日常でデータを湯水のように使うことに慣れすぎているのだ。
そこで私は、以前から気になっていたHolafly(オラフライ)を試すことにした。最大の特徴は、多くの国で「データ無制限(Unlimited Data)」を提供している点だ。
データ残量を気にしない「真の自由」
導入してすぐに世界が変わった。文字通り、Airaloの代わりを探していた私にとって、これは衝撃だった。
移動中のバスの中でYouTubeでお気に入りのVlogを見てもいい。撮ったばかりの高画質な動画をクラウドにバックアップしてもいい。Spotifyで旅のサウンドトラックを流し続けてもいい。「ホテルのWi-Fiに繋ぐまで我慢しよう」という思考そのものが消滅したのだ。
特に、デジタルノマドとして仕事をする私にとって、テザリング(プランによるが)やビデオ会議の安定性は生命線だ。Holaflyの無制限プランは、私に「現地の住人と同じデジタルライフ」を即座に取り戻させてくれた。

2. ロンドンの教訓:「無制限」の弱点と通信品質
しかし、完璧に見えたHolaflyにも弱点があった。それはロンドン滞在中に露呈した。
ロンドンのショーディッチエリア。週末のマーケットで賑わう人混みの中、次の目的地へ向かうためにバス停を探していた。目の前を目的のバスが通り過ぎようとしている。「急げば乗れる!」と思い、ルートを確認しようとGoogle Mapsを開いた。
……読み込まない。
アンテナは立っている。しかし、地図のレンダリングがいつまで経っても終わらない。白いグリッドが表示されたまま、バスは無情にも走り去っていった。その時の焦燥感と言ったらなかった。
FUP(公正利用ポリシー)と混雑の壁
これはHolaflyに限った話ではないが、多くの「無制限」プランにはFUP(Fair Usage Policy:公正利用ポリシー)や、ネットワーク混雑時の速度制御が存在する。特にロンドンのような大都市の密集地帯や、短期間に膨大なデータ通信を行った直後には、通信速度が著しく低下することがあるのだ。
動画は見放題でも、肝心な時に地図が開かないのでは、ナビゲーターとしての信頼性は揺らぐ。私はここで学んだ。「無制限=常に爆速」ではないのだと。
3. 期限切れからの解放:Roamlessという革命
ロンドンでの苦い経験に加え、もう一つ、従来のeSIMには長年の不満があった。それが「有効期限」だ。
私はリスボンで開催されたWebSummitに参加した後、ロンドンへ移動した。リスボン滞在用に買った3GBのデータプランは、まだ1GB近く残っていた。しかし、国境を越えた瞬間、その1GBはただの電子ゴミと化した。さらに言えば、多くのeSIMは「購入から30日間」といった期限があり、使いきれなかったデータは消滅する。
「お金をドブに捨てている感覚」。これを解決してくれたのが、Roamless(ロームレス)だった。
データは「消費」から「資産」へ
Roamlessのコンセプトは、eSIM界の革命と言っていい。
- 有効期限なし(Never Expires): チャージした残高は、1年後でも5年後でも使える。
- ワン・グローバル・eSIM: 国ごとにプランを買う必要がない。一度設定すれば、世界中どこでもそのウォレット残高から使った分だけ引かれる。
つまり、リスボンで余ったデータ(残高)は、そのままロンドンで使えるし、半年後の東京でも使える。これはデータを「消費財」から「資産」へと変えるパラダイムシフトだ。

余ったデータは次の旅へ持ち越し可能
速度制限なし(No Speed Cap)の救世主
そして、Roamlessにはもう一つ、決定的な強みがある。それが「速度制限(スピードキャップ)がない」ことだ。
先述したロンドンでの「Holafly激遅事件」の時、私はとっさに予備として入れていたRoamlessに回線を切り替えた。するとどうだ。Google Mapsは一瞬で現在地を表示し、次のバスの時間を正確に教えてくれた。
Roamlessは従量課金(Pay-as-you-go)であるため、通信キャリア側での優先度が高いのか、あるいは帯域制限を設けていないためか、とにかく「初速」が速い。混雑したエリアでも、必要な情報をサッと取得するのに最適なのだ。
余ったデータは次の旅へ持ち越し可能
4. 結論:HolaflyとRoamlessの「二刀流」が最強である理由
2025年の今、私がたどり着いた結論はこうだ。「一つのeSIMですべてを解決しようとしてはいけない」。
それぞれの特性を理解し、使い分けることこそが、最も賢く、そして最もストレスフリーな旅のスタイルだ。私は現在、以下のように使い分けている。
【メイン】Holafly(無制限)
- 用途: Instagram、TikTok、YouTube、Spotify、クラウド同期、テザリング(仕事)。
- シチュエーション: ホテル、カフェ、移動中のエンタメ、滞在期間が長い時。
- メリット: 残量を気にせずリッチなコンテンツを楽しめる。
【サブ/守護神】Roamless(期限なし・高速)
- 用途: Google Maps、Uber、航空会社のアプリ、決済、メッセージの送受信。
- シチュエーション: 空港到着直後、国境越え、人混み、Holaflyが遅い時、次の旅への繰り越し。
- メリット: 絶対に繋がってほしい時に高速で繋がる信頼性。無駄がない。
余ったデータは次の旅へ持ち越し可能
この組み合わせなら、Holaflyで「無制限の自由」を享受しつつ、いざという時の通信品質や周遊時の利便性をRoamlessで担保できる。Roamlessには20ドルほどチャージしておけば、使わなければ次の旅に持ち越せるため、掛け捨てのリスクもない。
まとめ:旅の解像度を上げる投資を
「Airalo代わり」を探して彷徨っていた私は、結果として2つの強力なツールを手に入れた。もしあなたが、まだ「30日で消滅するギガ」や「残量通知のストレス」に悩まされているなら、この新しいスタイルを試してみてほしい。
スマートフォンは旅の羅針盤だ。その羅針盤の精度と持続力を高めることは、旅そのものの解像度を高めることに他ならない。ロンドンの路地裏でも、ハワイのビーチでも、リスボンの丘の上でも。私たちに必要なのは、繋がることへの不安ではなく、目の前の景色に没頭する自由なのだから。
さあ、古いSIMの常識を捨てて、新しい自由をインストールして旅に出よう。



