渋谷PARCOで見つけた、時を巻き戻す魔法。噂のカセットテープ専門店への道のり
渋谷。その名は、秩序と混沌が共存する巨大な交差点のイメージと分かち難く結びついている。スクランブル交差点を渡る人々の波は、まるで現代日本の縮図のようだ。しかし、デジタルマーケティングを生業とする僕、CityNomixにとって、この街は単なるトレンドの発信地ではない。無数の路地裏やビルの谷間に、まだ見ぬカルチャーが息づく、尽きることのない探検フィールドなのだ。
その日は、金曜の昼下がり。渋谷での打ち合わせまで、実に2時間もの空白が生まれてしまった。ランチには少し早い、この宙ぶらりんな時間をどう使うか。ふと、以前から耳にしていた噂が脳裏をよぎる。「新生渋谷PARCOに、すごいカセットテープ専門店があるらしい」。そうだ、行こう。スマートフォンの画面をタップすれば、目的地はすぐに明らかになる。渋谷PARCOの5階、その名は「Oddtape」。
強い日差しが照りつける中、僕は公園通りを登り、そのユニークな建造物へと足を踏み入れた。複雑に組み合わされたテラスと緑が、都会のコンクリートジャングルに涼しげな表情を与えている。これこそが新しい渋谷の象徴だ。

エスカレーターで階層を上がるたび、PARCOという商業施設の懐の深さに驚かされる。1階にはエルメスの香水が漂い、2階にはマルジェラやジュンヤワタナベといったモードの先端が並ぶ。かと思えば、4階にはSNIDELのようなリアルクローズも。この多様性こそが、あらゆるカルチャーを飲み込み、新たな何かを生み出してきたPARCOの真骨頂なのだろう。そして、期待に胸を膨らませながら、僕は5階のフロアに降り立った。
新品も中古も圧巻の品揃え!東京が誇るカセットテープ販売の聖地
目的の店は、すぐに見つかった。白を基調としたミニマルなファサードに、黒で刻まれた「Oddtape」の文字。ガラス張りの向こうには、壁一面を埋め尽くす色とりどりの小さな長方形が、無言の熱量で僕を誘っている。

一歩、店内に足を踏み入れた瞬間、僕は息を呑んだ。これは、単なる店の品揃えではない。一つの宇宙だ。木製の棚には、ジャンルごとに meticulously(細心の注意を払って)整理されたカセットテープが、ぎっしりと、しかし整然と並べられている。その光景は、もはやアートインスタレーションの域に達していた。
「ALTERNATIVE」と書かれた仕切り版のセクションには、僕の青春時代を彩ったバンドたちの名前が見える。その隣にはインディーロック、インディーポップ、ニューウェーブ。さらに、Lo-Fi Hip-Hopやエレクトロのカラフルなジャケットが目を引く棚も。


正直に告白しよう。僕はこれまで、中目黒のWaltzやタワーレコード渋谷店のカセットコーナーを聖地のように巡礼してきた。だが、Oddtapeの、特に「新譜」におけるセレクションの深さと幅広さは、それらと遜色ない、いや、もしかしたら凌駕しているかもしれない。そう直感させるほどの衝撃だった。
ホスピタリティに心解ける、最高のカセットテープ専門店体験
棚に並ぶ無数の背表紙を、僕はまるで古代の碑文を解読するかのように凝視していた。Nirvanaの見たことのないライブ盤。ああ、これは先月、海外のサイトでポチってしまったやつだ。危うく二重に買うところだった。自分の記憶力の曖昧さと、物欲の根深さを同時に呪う。そんな僕の背中に、穏やかな声がかかった。
「何かお探しですか?うちは知名度よりも品揃えを重視しているので、かなり幅広く揃えているんです。気になるものがあれば、試聴もできますよ」
振り返ると、人の良さそうなお兄さん、おそらく店員さんだろう、が立っていた。試聴?カセットテープを?このデジタル時代に、なんと温かい響きを持つ言葉だろう。そのホスピタリティに驚きつつ、僕は少し興奮気味に答えていた。
「いえ、ただ、この品揃えがすごすぎて…。さっきはNirvanaのテープ、自分が持っているか分からなくなって、スマートフォンの購入履歴を必死に確認してました」
すると店員さんは「あ、あのライブ盤ですね。うちも最近、ようやく再入荷できたんですよ」と笑う。この短い会話だけで、店の姿勢が伝わってくる。ここはただ商品を売る場所ではない。音楽への愛と知識を分かち合う、コミュニティのような空間なのだ。「ゆっくり見ていってくださいね」。その言葉に甘え、僕は再び宝探しの海へと漕ぎ出した。
インディーからジャズまで、東京で出会うべき新品カセットテープ専門店
じっくりと棚を眺めていくと、発見の連続だ。Mac Millerのアルバムの隣には、LAの森林火災を支援するためのチャリティカセットが置かれている。オレンジ色のカセット本体と、山火事をモチーフにしたジャケットが印象的だ。音楽が、カルチャーが、社会とどう繋がれるか。そんなことを考えさせられる一本だ。

温かみのある木製テーブルの上には、店主のおすすめであろう個性豊かなテープが並べられている。クリアなものから、サイケデリックなデザインまで。一つひとつがオブジェとしての魅力も放っている。

まさに、カセットテープの中古から新品まで、あらゆるものがここにある。ジャンルの垣根も軽々と越えていく。ジャズの棚にはモダンジャズの名盤があり、その隣には韓国のインディーバンドのカセットまで並んでいるのだから。

そして、ついにその時は訪れた。オルタナティブの棚に、見慣れたようでいて、まったく知らないアートワークが紛れ込んでいるのに気づいた。誰だ?…Billie Eilishじゃないか。世界を席巻するポップスターの、こんなジャケットは見たことがない。手に取ってみると、そこには「Tiny Desk Concert」の文字が。マジか。
発見の喜び:Billie Eilishの貴重なライブ音源
Tiny Desk Concerts(タイニー・デスク・コンサート)を知らない読者のために少し解説しよう。これはアメリカの公共ラジオ局NPRが配信する人気音楽コンテンツで、アーティストが文字通り「小さな机」の前で、親密なライブを披露するものだ。巨大なスタジアムとは全く違う、生々しいパフォーマンスが魅力で、僕も大好きなシリーズだ。その音源がカセットになっているとは。これは買うしかない。デジタルのコンテンツを、あえてフィジカルなメディアで所有する。この行為自体に、現代ならではの豊かさがある。
未知との遭遇:ブルックリンの風を運ぶインディーバンド
Billie Eilishのカセットを胸に抱きしめたい衝動を抑えつつ、もう一度店内を見渡す。すると、ふと、クリアなケースに入ったシンプルなデザインのカセットが目に留まった。バンド名は「Bedridden」。ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するインディーバンドらしい。添えられたOddtape手書きのPOPには、こう書かれていた。「The Smashing Pumpkinsをリスペクト」。その一文で、僕の心は決まった。スマパン。90年代オルタナティブの金字塔。その遺伝子を受け継ぐバンドのデビューアルバムだなんて、聴かないわけにはいかないじゃないか。
こうして僕は、世界的スターの貴重なライブ音源と、まだ見ぬインディーバンドのデビュー作という、実に対照的な2本を手にすることになった。これぞ、カルチャーの交差点・渋谷のカセットテープ専門店ならではの出会いだ。

気がつけば、打ち合わせの時間が迫っている。後ろ髪を引かれる思いでレジへ向かう。支払いを済ませ、小さな紙袋を受け取る。この中には、音楽が詰まっているだけでなく、今日の発見の喜びと、次への期待も詰まっている。渋谷での打ち合わせは、またきっとあるだろう。その時は、また必ずここに来よう。そう心に誓い、僕は喧騒の中へと戻っていった。
渋谷Oddtapeへのアクセスと実践的情報
僕と同じように、この素晴らしいカセットテープ専門店を訪れたいと思ったあなたのために、実践的な情報をまとめておこう。
- 場所: 渋谷PARCO 5階
- アクセス: JR、東急線、東京メトロ各線の渋谷駅から徒歩約5〜10分。ハチ公口から公園通りを上るのが分かりやすいだろう。
- 営業時間: 渋谷PARCOの営業時間に準ずる。訪問前には公式サイトで確認することをおすすめする。 (Oddtape公式サイト)
- 品揃え: 新品のカセットテープが中心。インディー、オルタナティブ、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロなどジャンルは多岐にわたる。一部、中古やZINEの取り扱いもある。まさにカセットテープの販売における東京の重要拠点だ。
- 価格帯: 新品カセットはおおよそ2,000円〜4,500円程度が中心。輸入品や希少盤はそれ以上の場合もある。
- 所要時間: ざっと見るだけなら15分。僕のようにじっくり宝探しをするなら、1時間はあっという間に過ぎるだろう。
- 支払い方法: 各種クレジットカード、電子マネーに対応している。
- CityNomixからのヒント: 店員さんは非常に知識が豊富でフレンドリー。探している音楽のジャンルや好きなアーティストを伝えれば、きっと素晴らしい提案をしてくれるはずだ。試聴も可能なので、気になる一枚があれば遠慮なく声をかけてみよう。
まとめ:Oddtapeはなぜ最高のカセットテープ専門店なのか
今回の訪問は、僕にとって単なる買い物を超えた「体験」だった。デジタルストリーミングが主流の今、なぜ僕たちはカセットテープを求めるのか。Oddtapeはその答えを教えてくれる場所だ。それは、手で触れられるモノとしての所有欲。ジャケットアートをじっくりと眺める喜び。そして、A面からB面へと、作り手が意図した流れで音楽に没入する時間。何より、Oddtapeには「発見」がある。アルゴリズムが推薦するのとは違う、偶然の出会いがそこには満ちている。知識豊富な店員との会話から生まれる、新たな音楽への扉。渋谷の真ん中で、これほどまでに濃密な音楽体験ができるカセットテープ専門店は、他にないだろう。Billie EilishとBedridden。僕の部屋のプレーヤーで、この2本がどんな音を奏でるのか。今から楽しみでならない。
公式サイト:https://oddtape.com/
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