Bom dia! リスボンからCityNomixがお届けします。
デジタルマーケティングの世界に身を置く私にとって、毎年のトレンドを肌で感じることは酸素を吸うのと同じくらい重要です。しかし、画面越しに見る基調講演と、現地の熱気の中で浴びる情報は、似て非なるものです。そこには「ノイズ」という名のコンテキストがあり、聴衆のどよめきがあり、そして何より、街そのものが発するエネルギーがあるからです。
今回は、世界最大級のテクノロジーカンファレンス「Web Summit 2025」に参加するために訪れたポルトガル・リスボンでの体験、特に私の知的好奇心を強烈に刺激したQualcomm(クアルコム)の基調講演について、熱量そのままにレポートします。
テーマは「Qualcommが考える未来のAI」。
単なるスペック競争の話ではありません。私たちの生活、そして「人間とデジタルの関係性」がどう変わろうとしているのか。そのヒントがここにありました。
リスボンの風とWeb Summitの熱狂
11月のリスボンは、意外にも穏やかな陽気に包まれていました。会場となるMEOアリーナ(MEO Arena)へ向かうため、私は「アラメダ・ドス・オセアノス(Alameda dos Oceanos)」を歩いていました。かつて万博が行われたこのエリアは、モダンな建築と水辺の風景が融合した、まさに未来を語るにふさわしい場所です。

紅葉が始まった並木道の下、ウッドデッキを歩く足音が心地よく響きます。色鮮やかなタイルで装飾された水路沿いには、世界中から集まったテック愛好家や起業家たちが、それぞれの言語で未来を語り合いながら会場へ向かう姿がありました。この「歩いて、撮って、感じる」時間こそが、Photomoの醍醐味であり、情報の解像度を高めるための準備運動でもあります。
会場に入ると、そこはすでに熱気の渦。そしてDay 2のハイライト、QualcommのCEO、クリスティアーノ・アモン(Cristiano Amon)氏の登壇です。

ステージ上のスツールに腰掛けたアモン氏。背後の巨大スクリーンには「-centered design in the age of AI」の文字。彼が語り始めたのは、半導体の微細化の話ではなく、AIがいかにして「新しいUI(ユーザーインターフェース)」となり得るかという壮大なビジョンでした。
Qualcommが提示するAIの未来:6つのトレンド
アモン氏が提示したスライドは、非常に示唆に富むものでした。彼らが考える「AIの未来を推進するトレンド」として、以下の6つが挙げられました。

- AI is new UI(AIは新しいUIである)
- Agent-centric(エージェントセントリック)
- New computing architecture(新しいコンピューティングアーキテクチャ)
- Hybrid models(ハイブリッドモデル)
- Edge data(エッジデータ)
- Perceptive networks(知覚ネットワーク)
一見すると専門用語の羅列に見えるかもしれません。しかし、これらを紐解いていくと、私たちが日々感じている「AIへのもどかしさ」を解消する鍵が見えてきます。特に私が注目したのは、「Agent-centric(エージェント中心)」という概念と、それを支えるインフラの話です。
エージェントセントリック AI とは:AIは「ツール」から「パートナー」へ
今回の講演で最も私の心に刺さったキーワード、それが「Agent-centric」です。では、具体的にエージェントセントリック AI とは何を意味するのでしょうか。
皆さんも生成AIを使っていて、こう思ったことはないでしょうか?
「もっと私のことを理解してほしい」
「さっき言ったじゃないか」
「いちいち説明しなくても、この画像の文脈を汲み取ってくれよ」
現在の多くのAIは、こちらが的確なプロンプト(指示)を与えて初めて機能する「受動的なツール」です。しかし、Qualcommが描くエージェントセントリックな未来とは、AIがユーザーのコンテキスト(文脈)を自律的に理解し、先回りして行動する「能動的なパートナー」へと進化することを指します。
例えば、私が「お腹が空いた」と呟いたとします。従来のAIなら「近くのレストランを検索しますか?」と聞くでしょう。しかし、エージェントセントリックなAIなら、私の過去の行動データ、現在の位置情報、あるいはウェアラブルデバイスから取得した血糖値や心拍数のデータ、さらには直前のスケジュール(会議で疲弊しているなど)を統合し、「お疲れのようですね。静かで、あなたが好きなポルトガル料理の店を予約しましょうか?そこなら今の現在地から徒歩5分です」と提案してくれる。
つまり、エージェントセントリック AI とは、ユーザーが言語化できていないニーズさえも、日々の行動や生体データといった膨大なコンテキストから「察する」AIのことなのです。これはもはや、優秀な秘書以上の存在と言えるでしょう。
「察するAI」を実現するためのマルチモーダル化
この「察する能力」を高めるために不可欠なのが、情報のインプット形式の多様化、すなわち「マルチモーダル化」です。

人間は、言葉(Text)だけでコミュニケーションしているわけではありません。視覚(Vision)、聴覚(Voice)、そして場の雰囲気など、五感を総動員して相手を理解します。Qualcommのスライドでは、これらの多様なインプットが、カレンダーや位置情報といったパーソナルデータと統合され、ユーザーの生活シーン(料理、仕事、ヨガなど)に最適化されていく様子が描かれていました。
テキスト情報は正確ですが、入力に手間がかかります。画像なら一瞬で多くの情報を伝えられますが、解釈の幅が広すぎて誤解を生むこともあります。だからこそ、それらを組み合わせることで、AIの理解度を飛躍的に高める必要があるのです。
ハイブリッドモデル:クラウドとエッジの幸福な関係
しかし、ここで問題が発生します。これほど膨大でプライベートな情報を、すべてクラウド(インターネットの向こう側)に送って処理させるべきでしょうか? セキュリティの懸念もあれば、通信の遅延も許されません。
そこで重要になるのが、「Hybrid models(ハイブリッドモデル)」という考え方です。

このスライドが示すように、AIの処理能力はクラウドだけでなく、私たちの手元にあるデバイス(スマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラスなど)にも分散されつつあります。これを「オンデバイスAI」や「エッジAI」と呼びます。
私の解釈では、これは人間の脳(クラウド)と反射神経(エッジ)の関係に似ています。瞬時の判断やプライバシーに関わる処理は手元のデバイス(反射神経)で行い、より高度で大規模な計算が必要な場合のみクラウド(脳)に問い合わせる。Qualcommはこの「ハイブリッド」こそが、リアルタイムで安全なAI体験の鍵だと強調していました。
6GとPerceptive Networks:空間そのものがセンサーになる
そして、話はさらに未来へと進みます。「Perceptive networks(知覚ネットワーク)」と6Gの話です。

アモン氏は「6GはAI利用のためにデザインされたネットワークだ」と語りました。興味深かったのは、6Gネットワークそのものがセンサーとして機能するという点です。基地局からの電波(無線周波数)を利用して、カメラやウェアラブルデバイスを使わずに、空間内の物体の位置や人の動きを正確に把握できるようになるというのです。
これは少しSFチックであり、同時にプライバシーの観点からは「怖い」と感じる人もいるかもしれません。アモン氏自身も、その可能性とセンシティブさについて慎重に言葉を選んでいる印象を受けました。
しかし、もしこれが安全に実装されれば、ウェアラブル機器を身につけていなくても、AIが私たちの状況(倒れている、走っている、部屋に誰かがいるなど)を理解し、緊急時のサポートや環境制御を行えるようになります。「空間が私を知っている」状態。これこそが、究極のコンテキスト理解につながるのかもしれません。
ウェアラブルの進化とQualcommのエコシステム
こうした未来を実現するためのデバイスとして、QualcommはスマートグラスやXRデバイスに力を入れています。

Meta、RayNeo、XREAL、Rokid……。スライドに映し出されたパートナー企業の多さに驚かされました。スマホを取り出すことなく、視界そのものが情報のインターフェースになり、見たものすべてがAIへのインプットになる。そんな「AIアイウェア」の時代は、もう目の前まで来ているのです。
そして、AIの活用領域はパーソナルな分野に留まりません。

ロボティクス、自動運転、そして産業インフラ。これら全ての領域において、AIが自律的に判断し行動する「自律型AI」へのシフトが進んでいます。
CityNomixの視点:私たちはどう備えるべきか
今回のWeb SummitでのQualcommの発表を聞いて、私は確信しました。これからのデジタルマーケティング、そして私たちのライフスタイルにおいて重要なのは、「AIに何をさせるか」というコマンド能力以上に、「AIといかにコンテキストを共有するか」というパートナーシップ構築能力になるでしょう。
実践的価値としてのテイクアウェイ:
- デバイス選びの基準が変わる: 今後スマートフォンやPC、ウェアラブル機器を新調する際は、単なる処理速度だけでなく、「NPU(AI処理専用プロセッサ)の性能」や「オンデバイスAIへの対応度」が重要な判断基準になります。QualcommのSnapdragon搭載機などは、この点でリードしていくでしょう。
- 「自分のデータ」の価値を知る: エージェントセントリックなAIの恩恵を受けるには、ある程度自分のデータをAIに開放する必要があります。しかし、どこまでを許容し、どこからを守るか。そのリテラシーを持つことが、快適さと安全のバランスを保つ鍵です。
- ウェアラブルへの投資: スマートウォッチやスマートグラスは、単なる通知確認デバイスから、AIへの「インプット端子」へと進化します。まずはスマートウォッチからでも、自分の生体データをデジタル化する習慣をつけておくと、AIエージェントの精度が上がった際にスムーズに恩恵を受けられるはずです。
まとめ:リスボンの夕暮れと共に
講演を終え、再びMEOアリーナの外に出ると、テージョ川に夕日が差し込んでいました。AIという技術は、時に冷たく無機質なものに感じられますが、Qualcommが目指しているのは、テクノロジーが人の意図を汲み取り、温かみのあるサポートを提供する未来なのだと感じました。
「AI is new UI」。
キーボードを叩くのではなく、ただ話しかける、あるいはただ思うだけで世界が応えてくれる。そんな魔法のような日常が、もうすぐそこまで来ています。
リスボンの街並みと最先端のテクノロジー。過去と未来が交差するこの場所で得た刺激を胸に、また次の街へと歩みを進めたいと思います。皆さんも、次なるAIの波、エージェントセントリック AI とは何かを意識しながら、新しいデバイスやサービスに触れてみてください。きっと、景色が変わって見えるはずです。
それでは、Até logo!(またね!)



