熱気と喧騒の先に見えたもの:Web Summit 2024 レポート序章
ポルトガル、リスボン。11月の空は時折、石畳を濡らす雨を降らせるが、街の空気は世界中から集まった人々の熱気で満ちていた。Photomoを運営するCityNomixとして、僕がこの地に降り立った目的はただ一つ。世界最大級のテクノロジーカンファレンス、Web Summitに参加するためだ。
普段はデジタルマーケティングの世界で数字とロジックを追いかける僕だが、心のコンパスは常にローカルなカルチャーの発見へと向いている。テクノロジーの最前線で何が語られ、どんな未来が描かれているのか。それを自身の肌で感じ、掬い上げ、Photomoの読者であるあなたと分かち合う。それこそが、僕の旅の意義だ。
昨年のWeb Summit 2023が「AIをどう社会に実装し、活用していくか」という希望に満ちた問いに溢れていたとすれば、今年の空気は少し違っていた。より現実的で、より切実な課題が、会場のあらゆる場所で議論されていたのだ。この包括的なweb summit 2024 レポートを通じて、僕がリスボンで目撃したテクノロジーの現在地と、来たる2025年に向けて私たちが何を準備すべきか、その核心に迫っていきたい。
核心を突くWeb Summit 2024 レポート:AIは「コスト」という重力にどう向き合うか
今年のWeb Summitを貫く最大のテーマ、それは間違いなく「AIとコスト」だった。生成AIが世界を席巻し、その可能性に誰もが熱狂したフェーズは終わりを告げ、今はその巨大なポテンシャルをいかに持続可能な形で社会のインフラとして根付かせるか、という新たな挑戦の段階に入っている。基調講演から小さなスタートアップのブースまで、この課題意識は共通していた。
AI トレンド 2024:マイクロソフトが語るインフラと「核融合」への期待
最も象徴的だったのは、Microsoftの基調講演だ。彼らは明言した。「AIの活用には、強力なインフラが必要不可欠である」と。そのインフラとは、膨大な計算処理を可能にする超ハイスペックなGPUを搭載したサーバー群、すなわち巨大なデータセンターを意味する。
しかし、その運用と維持には想像を絶するほどの電力が必要となる。それは単に企業のコストを圧迫するだけでなく、地域の電力供給にまで影響を及ぼしかねないほどの規模なのだ。この深刻な課題に対し、Microsoftが解決策として期待を寄せていると語ったのが「核融合」だった。AIという最先端のソフトウェア技術が、究極のエネルギーというハードウェア技術のブレークスルーを待っている。この壮大な構図は、テクノロジーの進化がもはや単一の領域で完結しない、複雑な依存関係の上にあることを雄弁に物語っていた。
電力だけではない、AIのコスト構造
AIが生み出すコストは、電力だけにとどまらない。もう一つの大きな課題は、データセキュリティだ。特に、様々なデータを学習させる大規模言語モデル(LLM)の活用は、データの保護と管理を極めて難しくしている。「チャレンジング」という言葉では生ぬるいほど、その構築は困難を極めるという。そのため、巨大なモデル一辺倒ではない動きも活発化している。例えば、医療分野では、機密性の高い患者情報を扱うため、あえて領域を限定し、狭く深いデータを集中的に学習させることで、精度を保ちながらコストとセキュリティリスクを低減するアプローチが模索されていた。これは、AIの未来が「大きいことは良いことだ」という単純なスケールアップ競争ではないことを示唆している。
ギークな視点:計算処理の最適化というアプローチ
より技術的な側面からのコスト削減アプローチも興味深かった。あるセッションでは、AIの計算処理を従来の16ビットから4ビットに削減する手法が提案されていた。これは、情報の解像度を少し落とす代わりに、計算に必要なリソースを劇的に減らすという考え方だ。全てのAIに最高の解像度が必要なわけではない。用途に応じて最適な計算レベルを選択することで、コストを賢く管理する。こうした地道な最適化の積み重ねこそが、AIの民主化を加速させる鍵なのかもしれない。まさに、テクノロジーの現場らしい、地に足の着いた議論だった。

AIと著作権のジレンマ:創造性の対価はどこへ向かうのか
テクノロジーが進化すれば、必ず法や倫理の問題が立ち上がる。今年のWeb Summitでは、「生成AIと著作権」が熱い議論の的となっていた。僕が特に衝撃を受けたのは、ある法律専門家の見解だ。「AIに学習データとして著作物を入力した瞬間、そのデータは制作者の手を離れる」というのだ。

これは何を意味するか。現状の法解釈では、AIが生成したコンテンツに対して、元のデータを提供したクリエイターが著作権を主張し、直接的な報酬を得ることは極めて難しいということだ。もちろん、AI活用によって生まれる新たなサービスや価値から「間接的な報酬」を得ることは可能だろうが、それは防ぐこともできない。創造性の源泉であるクリエイターへの対価をどう設計するのか。この根源的な問いに、テクノロジーも社会も、まだ明確な答えを出せていない。これは、僕たちコンテンツを発信する側にとっても、避けては通れない課題である。
マーケターの視点で読み解くWeb Summit 2024 レポート:ファネルの終焉とOOHの逆襲
デジタルマーケターである僕のアンテナが最も強く反応したのが、マーケティングトラックでの議論だ。そこでは、長年マーケティングの教科書的存在だった「ファネルマーケティング」の限界が、はっきりと語られていた。
マーケティング 最新動向:もはや顧客は一直線には進まない
認知、興味、比較検討、購入…といった直線的な顧客の旅は、もはや幻想に過ぎない。情報過多の現代において、顧客はSNS、口コミ、動画プラットフォーム、リアルな店舗など、無数のタッチポイントを複雑に行き来する。この混沌とした状況で、旧来のファネルモデルに固執することは、機会損失に他ならない。これからのマーケターには、より複雑で多層的な顧客体験全体を俯瞰し、最適なコミュニケーションを設計する能力が求められる。それは、まさに僕自身の仕事に対する警鐘のようでもあった。
さらに興味を引かれたのは、屋外広告(OOH: Out-of-Home)の進化だ。デジタル広告の世界では当たり前のABテストや効果測定、ヒートマップによる顧客の可視化といった手法が、今やリアルな世界の屋外広告にも応用され始めているという。どの看板が、どの時間帯に、どんな層に注目されたのか。そうしたデータが取得可能になることで、屋外広告は「何となく出す」ものから、「戦略的に投資する」対象へと変貌を遂げている。デジタルの知見がリアルな世界に逆流し、新たな価値を生み出していく。このダイナミズムは、マーケティングの未来が非常にエキサイティングであることを予感させた。
スタートアップピッチから見る未来:スポーツとAIの幸福な出会い
Web Summitの醍醐味の一つは、世界中から集まる野心的なスタートアップたちのピッチに触れることだ。数多くのサービスの中で、僕が特に革新的だと感じたのが「Scoutz」というプラットフォームだった。

これは、世界中の学生アスリートとプロチームや大学のコーチ、スカウトを結びつけるサービスだ。地方に埋もれた才能ある若者が、自身のプレー動画や身体能力データをアップロードすることで、世界中のスカウトの目に留まる機会を得られる。一方で、スカウト側は、これまで足で稼ぐしかなかった原石発掘を、データドリブンで効率的に行えるようになる。まさに、テクノロジーが機会の不平等を是正する好例だ。

選手のパフォーマンス分析、怪我の予防、対戦相手の戦略予測など、スポーツとAIの相性の良さは以前から指摘されていたが、Scoutzは「リクルーティング」という領域に光を当てた。才能と機会を最適にマッチングさせる。この発想は、スポーツ界のみならず、あらゆる分野に応用可能なポテンシャルを秘めていると感じた。
web summit 参加 体験:巨大な会場を歩き、思考し、味わう
さて、少し技術的な話から離れて、参加者としてのリアルな体験も共有したい。Web Summitの会場は、とにかく広い。複数のパビリオンに分かれており、目当てのセッションやブースにたどり着くだけでも一苦労だ。まさに、知の迷宮。歩き疲れて頭が飽和状態になった時、僕を救ってくれたのはフードエリアで偶然見つけた、一台のフードトラックだった。

そこで売られていたのは、焼きたてのワッフル。紙の容器に入れられた、ごくシンプルな一品だ。しかし、一口食べると、その驚くべきフワフワ感と、疲れた体に染み渡る粉砂糖の優しい甘さに、思わず笑みがこぼれた。世界最先端のテクノロジーが議論される空間で、こんなにもアナログな幸福感に満たされる。このギャップこそが、旅の、そしてこうした大規模なリスボン カンファレンスの面白さなのかもしれない。
晴れた日の昼休みには、多くの参加者が屋外の広大なウッドデッキに腰を下ろし、思い思いにランチタイムを過ごしていた。日光を浴びながらサンドイッチを頬張り、あるいは初対面の人と熱心に意見を交わす。張り詰めたセッションの合間に見せる、リラックスした人々の表情。このオンとオフの切り替えが、長丁場のカンファレンスを乗り切るための重要な要素なのだろう。

この場所は、単なる情報収集の場ではない。世界中から集まった多様な人々と出会い、語り合い、新たな視点を得るためのプラットフォームなのだ。そのことを、リスボンの陽光が教えてくれた気がした。
web summit 2025 準備:来年の成功を掴むための実践的アドバイス
このレポートを読んで、来年のWeb Summit 2025への参加を検討し始めたあなたへ。僕の体験から得た、いくつかのアドバイスを送りたい。
- チケットは早期に: Web Summitのチケットは、販売時期によって価格が大きく変動する。Super Early Birdなどを利用すれば、かなり割安に購入可能だ。公式サイトを定期的にチェックすることをおすすめする。
- 宿泊場所は中心部か会場近くか: リスボンの交通網は発達しているが、会期中は非常に混雑する。ネットワーキングや夜のイベント「Night Summit」を重視するなら中心部のバイシャ・シアード地区、朝のセッションに集中したいなら会場(MEOアリーナ)周辺が便利だろう。自身の目的と照らし合わせて戦略的に選びたい。
- 目的を明確にする: 全てのセッションを見ることは物理的に不可能だ。「今回はAIの最新動向を追う」「マーケティングの新しい潮流を掴む」「有望なスタートアップと繋がる」など、自分なりのテーマを事前に設定し、公式アプリでスケジュールを組んでおくことが成功の鍵だ。
- 体力と充電器は万全に: とにかく歩く。そして、スマホで情報を調べたり、連絡を取り合ったりする機会も多い。歩きやすい靴と大容量のモバイルバッテリーは必須アイテムだ。
- ネットワーキングを恐れない: ランチの列、コーヒーブレイク、シャトルバスの中。あらゆる場所が出会いの場だ。CityNomixとして僕が心がけているのは、常にオープンでいること。少しの勇気が、思わぬビジネスチャンスや新たな友情に繋がるかもしれない。
まとめ:私のWeb Summit 2024 レポート、そして未来への視座
リスボンでの数日間は、僕にとって思考のシャワーを浴びるような時間だった。AIがもたらす未来への期待と、その実現に伴う「コスト」という名の重力。その間で揺れ動くテクノロジー業界のリアルな姿を目の当たりにした。このweb summit 2024 レポートが、単なる情報の羅列ではなく、あなた自身のビジネスやクリエイティビティ、そして未来を考える上での一つの「視点」となれば、これほど嬉しいことはない。
テクノロジーは、もはやそれ自体が目的ではない。社会を、そして私たちの生活を、より良くするためのツールだ。そのツールをどう使いこなし、どんな未来を創造していくのか。その問いを胸に、僕はまた新たな街を歩き、撮り、書き続けるだろう。Web Summit 2025で、あるいは世界のどこかの街角で、あなたと会える日を楽しみにしている。
公式サイト: https://websummit.com/
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