ロンドンの夜風は、興奮を冷ますには少し生ぬるかったかもしれません。Selhurst Parkでクリスタル・パレスの鎌田選手がピッチを駆ける姿を目に焼き付けた帰り道(観戦記はこちら)、私の心には別の「熱」が再燃していました。それは、長年探し求めていたOasisの12インチシングル、それもUKオリジナルCreation盤への渇望です。
ふとスマートフォンの画面をスクロールさせながら、私は自分自身に問いかけました。「そういえば、今回の旅でまだ新しいレコードショップを開拓していないのではないか?」と。CityNomixとして、これは由々しき事態です。そこで記憶の引き出しから飛び出してきたのが、以前InstagramでチェックしていたFlashback Recordsでした。
公式サイトで検索をかけると、なんと探していた盤の在庫があるではありませんか。場所はCrouch End店。現在時刻は18時。閉店は19時。ロンドンバスでは30分以上かかり、少しでも遅れればアウトです。迷っている暇はありません。私は迷わずUberを呼びました。これは、一人のレコードジャンキーがロンドンの夕暮れを駆け抜けた、小さな冒険の記録です。
閉店1時間前の攻防戦:Flashback Recordsを目指して
Uberの配車を待つ5分間が永遠のように感じられました。画面上の車のアイコンが近づくにつれ、私の鼓動も早まります。ドライバーに行き先を告げ、車窓から流れるロンドンの街並みを眺めながらも、気になって仕方がないのは到着予想時刻。25分かかるとのこと。ギリギリです。渋滞がないことを祈りながら、私はまだ見ぬレコードのジャケットを脳裏に描いていました。

そして18時30分、ついに到着。暗闇に浮かび上がる「Flashback Vinyl & CDs」の白い看板が、私を歓迎してくれているようでした。なんとか閉店20分前に滑り込みセーフ。息を整える間もなく、私はその重厚なドアを開けました。
店内の空気と運命の出会い
店内に入ると、そこはまさに「音楽の洞窟」。壁一面のポスター、所狭しと並べられたレコード棚。独特の紙とビニールの匂いが鼻孔をくすぐります。目的の場所はすぐに分かりました。壁面にディスプレイされた「英吉利の至宝」たち。
ありました。『Whatever』の12インチ、UKオリジナルCreation盤です。価格は£60。正直、数年前の相場を知る身としては「少し高いな」と感じました。以前手放してしまった自分を呪いたくなります。その隣には『Shakermaker』、こちらは£80。さらに『Morning Glory』のLPは£150、『The Masterplan』のLPに至っては£200というプレミア価格です。
検盤という名の儀式
LPの高騰ぶりにため息をつきつつ、今回はシングルに集中することに決めました。時間がない中、店員さんに声をかけ、検盤をお願いします。この待ち時間が何ともじれったい。しかし、渡された盤を見て確信しました。
『Whatever』はジャケットの端にスレがありましたが、盤面はEX+(Excellent Plus)クラスの美しさ。一方の『Shakermaker』はジャケットも盤もピカピカのEX+。なるほど、このコンディションなら£80も納得です。DAMONTプレスの刻印を確認し、間違いなくオリジナル盤であることを確かめました。「I’ll get them.(これください)」と伝えた瞬間、肩の荷が下りたような気がしました。

安心したのも束の間、残りの時間でさらに店内をスキャンします。Oasisのロゴ入りキーホルダーを発見し、2つ即決。さらにCDコーナーでは、The White Stripesのシングルを見つけました。Music & Video Exchangeでの経験(記事はこちら)が活き、CDディグの目も冴えています。
ロンドンのレコードショップならではの温かさ
「Stone Rosesはない?」と尋ねると、「今はないかな」と店員さん。閉店時間を告げる時計の針が迫る中、レジへ向かいました。すると、店長らしき男性が笑顔でこう言ったのです。「レコードを買ってくれたから、このトートバッグとCDシングルはサービスするよ」。
閉店間際の駆け込み客にもかかわらず、嫌な顔ひとつせず、むしろ音楽好き同士の連帯感で接してくれる。このホスピタリティこそが、Flashback Recordsが長く愛される理由なのでしょう。最高の気分で店を後にしました。
Flashback Recordsとは?ロンドンのレコードカルチャーを支える柱

1997年に創業されたFlashback Recordsは、ロンドンのレコード愛好家にとって欠かせない存在です。私が訪れたCrouch End店のほか、Islington(Essex Road)とShoreditch(Bethnal Green Road)にも店舗を構えています。
特にBritPopやIndie Rockの品揃えには定評があり、中古盤(Used Vinyl)の状態も厳格に管理されています。今回の私のように、探していた一枚に出会える確率は非常に高いと言えるでしょう。
ロンドンのレコードショップガイド:次なる目的地へ
ロンドンにはFlashback Records以外にも、巡るべき素晴らしいレコードショップが数多く存在します。ここでは、レコードハンティングの際にチェックしておきたいショップやキーワードをいくつかご紹介します。
Rough Records
ロンドンの音楽シーンを語る上で外せないキーワードの一つです。一般的には「Rough Trade」として知られる伝説的なショップやレーベルの流れを汲む、あるいはインディペンデントな精神を持つショップ群を指すことが多いでしょう。最新のインディー・ロックからカルトな名盤まで、幅広いセレクションが魅力です。
Casbah Records
グリニッジ(Greenwich)にある、ヴィンテージ感溢れるショップです。ソウル、ファンク、60年代のロックに強く、映画のセットのようなレトロな店構えも魅力の一つ。掘り出し物を探すワクワク感を味わいたいなら外せません。
Phonica records
ソーホー(Soho)の中心に位置する、エレクトロニック・ミュージックの聖地です。テクノ、ハウス、ディスコの新譜やアンダーグラウンドな盤を探すならここ一択。世界中のDJがロンドンを訪れる際に必ず立ち寄る場所としても知られています。
Honest Jon’s Records
ポートベロー・ロード(Portobello Road)にある老舗です。ジャズ、レゲエ、ワールドミュージックのセレクションは世界屈指。単なるレコード店を超え、独自のレーベル活動も行うなど、ロンドンの音楽文化発信地としての役割も担っています。
Crazybeat records
ロンドン郊外、アップミンスター(Upminster)にある隠れた名店です。特にソウル、ジャズ、ファンクのコレクターにとっては宝の山。中心部からは少し離れますが、その膨大な在庫量は足を運ぶ価値が十分にあります。
Atlas Records
オンラインストアとしての存在感も強いですが、丁寧なキュレーションと質の高い在庫で知られます。特にロック、ポップスの良質な中古盤を探している場合、彼らのリストは常にチェックしておくべきでしょう。
Yoyo Records
アメリカ盤の輸入や、質の高い中古盤の取り扱いで知られるショップです。特にコンディションにこだわるコレクターからの信頼が厚く、定期的に入荷される新着リストは見逃せません。
Flashback records London
今回私が訪れたFlashback Recordsは、ロンドン市内に3店舗を展開しています。Crouch End、Islington、Shoreditchと、それぞれエリアのカラーに合わせたラインナップが魅力です。もし時間が許すなら、3店舗を「はしご」して、それぞれの在庫の違いを楽しむのも一興です。
まとめ:諦めない心が呼び寄せた宝物
帰りはUberではなく、ロンドンバスに揺られてホテルへ戻りました。膝の上に置いたレコードの重みが、心地よい疲労感と共に「良い買い物をした」という実感を与えてくれます。
もしあの時、「もう遅いから」と諦めていたら、この『Whatever』は私の手元になかったでしょう。旅先での出会いは一期一会。欲しいと思ったその瞬間が、動くべき時なのです。ロンドンでレコードを探す旅、それは単なる買い物ではなく、自分の「好き」という感情に向き合う大切な時間でした。みなさんもロンドンを訪れた際は、ぜひFlashback Recordsのドアを叩いてみてください。きっと、あなただけの宝物が待っているはずです。



