SOHOの喧騒からPhonica Recordsへ、金曜夜のレコード探訪
ジミ・ヘンドリックスの初版レコードという思わぬ宝物と出会ったRough Trade Vintageを後にして、私の足は自然と次の目的地へと向かっていた。時刻は午後6時過ぎ。ロンドンのSOHOは、週末を目前にした金曜の熱気に包まれ始めている。パブからは陽気な声が溢れ、ネオンが濡れたアスファルトを照らし出す。この街のエネルギーを感じながら、私はポーランド・ストリートに佇むお気に入りの一軒、Phonica Recordsの扉を開けた。
私がSOHOで必ずこの店を訪れるのには、明確な理由がある。それは、他の多くのレコードショップとは一線を画す、独自のセレクションだ。特に、今や再びカルチャーシーンで注目を集めるカセットテープの充実した品揃えと、丁寧にキュレーションされた中古レコードの質の高さは、Phonica Recordsならではの魅力と言えるだろう。エレクトロニックミュージックに強いことで知られているが、その守備範囲は広く、訪れるたびに新たな発見が待っているのだ。
Phonica Recordsの入口で出会う、アナログの新たな波
店内に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、入口すぐの棚にずらりと並んだカセットテープのコレクションだ。まるで小さなアートギャラリーのように、デザイン性の高いグラフィカルなアートワークが施されたカセットが、ガラスの棚を彩っている。デジタルが音楽消費の主流となった現代において、この光景はどこか新鮮で、そして懐かしい。
Phonica Records ロンドン カセットテープの魅力的なセレクション
ニューヨークのアーティスト、Alien DによるEP『Mediterranean Blue』など、インディーズレーベルからリリースされたであろう個性的なタイトルが並ぶ。一つひとつ手に取り、そのデザインや質感を確かめる時間は、レコード探しの醍醐味の一つだ。データではなく「モノ」として音楽を所有する喜びを、この小さな棚は静かに語りかけてくる。

色とりどりのカセットテープが並ぶ様子は、見ているだけで心が躍る。奥にはDaft PunkやAphex Twinといった、この店らしいセレクトの書籍やレコードも垣間見える。じっくりと時間をかけて吟味したい、そんな気にさせられる空間だ。

混雑する店内、ディガーたちの熱気と予期せぬ発見
しかし、その日の店内はいつもと少し様子が違った。金曜の夜ということもあってか、多くの音楽ファンで賑わい、入口付近に長居するのが難しいほどの盛況ぶりだ。どうやら、何かインストア・イベントが予定されているらしい。人の波をかき分けるように、私は店の奥へと進んだ。
いつものように、私の探求はOasisから始まる。リアムやノエルのソロ作品も含めて、何か掘り出し物はないか。棚を丹念に見ていくが、見当たらない。次にThe Stone Roses。こちらも空振りだ。エレクトロ系に強いPhonica Recordsだからこそ、Daft Punkの初期盤あたりに巡り会えるかもしれない、という淡い期待も、残念ながら叶わなかった。こういう日もある。それがレコード探しのリアルだ。
ソーホー レコード屋 おすすめの理由:予期せぬ一枚との出会い
少し落胆しかけたその時、UKロックのセクションで、見覚えのあるモノクロのジャケットが目に留まった。黒板にチョークで殴り書きしたような、挑発的なタイトル。それは、Arctic Monkeysが2006年にリリースしたEP、『Who the F**k Are Arctic Monkeys?』だった。

デビューアルバム『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』の大成功の直後にリリースされたこのEPは、バンドの初期衝動が真空パックされたような、荒削りで獰猛なエネルギーに満ちている。そして何より、このEPにはアルバム未収録の名曲「No Buses」が収録されているのだ。ライブでは度々披露されるものの、公式音源としては貴重なこの曲が聴きたくて、ずっと探していた一枚だった。
思わぬ出会いに胸が高鳴る。探していた本命は見つからなくても、こうして予期せぬ一枚が目の前に現れるから、レコードショップ巡りはやめられないのだ。
もう一つの発見と、コレクターの小さなこだわり
興奮冷めやらぬまま、さらに店内を物色していると、もう一枚、興味深いレコードを見つけた。Jamiroquaiが選曲・監修を手がけた人気コンピレーションシリーズ『Late Night Tales: Jamiroquai』のアナログ盤だ。

Jay Kayの音楽的ルーツが垣間見えるソウルやジャズ、ファンクの名曲が詰まったこのアルバムは、夜更かしのお供に最適だろう。しかし、裏ジャケットをよく確認してみると、残念ながらオリジナル盤ではなくリマスター盤だった。

もちろん、リマスター盤ならではの音質の向上も期待できる。それでも、やはりオリジナル盤が持つ独特の空気感や価値を知っていると、少しだけ残念に思ってしまうのがコレクターの性(さが)というものだろう。今回は購入を見送ることにしたが、これもまた一期一会。次回の楽しみに取っておくことにした。
イベントの始まりと、SOHOの夜へ
私がレコードを選び終えた頃、店内のざわめきは一層大きくなっていた。スタッフがレコード棚を移動させ始め、DJブースらしきスペースが作られていく。これから始まるであろうイベントの熱気が、店内に満ちていくのを感じた。この特別な夜に参加したい気持ちもあったが、私にはまだ訪れたい場所が残っている。購入したArctic MonkeysのEPを大切に抱え、私は名残惜しさを感じつつもPhonica Recordsを後にした。
再びSOHOの雑踏に戻ると、冷たい夜の空気が火照った顔に心地よかった。手にしたレコードの重みが、今日の確かな収穫を物語っている。音楽と発見に満ちたロンドンの夜は、まだ始まったばかりだ。
Phonica Records 行ってきた:まとめと店舗情報
Phonica Recordsは、最新のエレクトロニックミュージックから、時代を超えて愛されるロックの名盤、そして再評価されるカセットテープまで、幅広い音楽ファンの探求心を満たしてくれる場所だ。特に、他の大型店では見過ごされがちなインディーズ系のリリースや、独自の視点でセレクトされた中古盤のラインナップは必見である。ロンドン、特にSOHOエリアでレコードを探すなら、絶対に外せない一軒と言えるだろう。金曜の夜にはインストア・イベントが開催されることも多いようなので、訪れる際は公式サイトでスケジュールをチェックしてみることをお勧めする。
公式サイト: http://www.phonicarecords.com/
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