ソーホーの夜とレコード探しの旅:Rough Trade Vintage ロンドンへ
ロンドンのソーホー。昼間の喧騒が少しずつ落ち着き、ネオンが街を彩り始める黄昏時。僕、CityNomixのレコードを探す旅は、まだ終わりません。Sister Rayの熱気、Reckless Recordsでの驚きの出会いを経て、次なる目的地は、ファッションと音楽が絶妙に交差するユニークな空間、Rough Trade Vintage ロンドンです。
この店は、他のレコードストアとは一線を画します。ニューヨーク発のファッションブランド「rag & bone」の店舗に併設されており、その地下へと続く階段を降りると、そこにはヴィンテージな音楽の香りが充満した秘密基地のような空間が広がっているのです。服を買いに来た客が音楽に、音楽を探しに来た客がファッションに。そんな偶然の出会いが生まれそうな、刺激的な場所です。
前回この場所を訪れた際は、ポール・ウェラーの貴重なカセットテープを手に入れるという幸運に恵まれました。(その時の興奮はこちらの記事で)さて、今夜はどんな一枚が僕を待っているのでしょうか。期待に胸を膨らませ、少し軋む木の階段をゆっくりと下りていきました。
rag & boneの地下に潜む音楽の聖域:Rough trade vintage shopの魅力
地下に広がる空間は、決して広くはありません。しかし、壁一面に並べられたレコードジャケット、中央に置かれた試聴機、そして丁寧に分類された棚が、ここが真の音楽好きのために作られた場所であることを物語っています。新品のレコードを多く扱うRough Trade EastやWestとは異なり、ここは「Vintage」の名が示す通り、中古盤やカセットテープ、音楽関連の書籍や雑貨が中心。規模は小さいながらも、そのセレクションには確かなセンスが光ります。
まずはレジ前のカセットテープコーナーをチェック。すると、ザ・ストーン・ローゼズのテープが目に飛び込んできました。思わず手に取りますが、価格は80ポンド。少し、いや、かなり予算オーバーです。泣く泣く棚に戻しました。この時、まさか数ヶ月後にドラマーのアラン・“レニ”・レンがこの世を去ってしまうとは、夢にも思っていませんでした。買っておけばよかった、と後悔しても後の祭り。音楽との出会いは、いつも一期一会なのだと改めて痛感させられます。
Oasis探しの旅路と「サイン入り」の甘い罠 – Rough Trade London sohoにて
気を取り直して、僕のライフワークとも言えるOasisのコーナーへ向かいます。ここは「Alt Modern」の「O」のセクション。指先でジャケットを一枚一枚めくりながら、まだ見ぬお宝を探します。

しかし、残念ながら今回は目新しい発見はありませんでした。定番のアルバムは揃っていますが、コレクター心をくすぐるようなレア盤は見当たらず。まあ、こんな日もあります。レコードディギングとは、忍耐力が試される宝探しのようなものですから。
少しがっかりしながら、何か面白いものはないかと雑貨や書籍が並ぶコーナーへ。そこで、僕の目はある一冊の本に釘付けになりました。

Oasisの写真集。そして、その表紙には「Signed Copy」と書かれた赤いステッカーが。サイン入り?マジか!心臓が跳ね上がります。つい先ほど、Reckless Recordsでノエル・ギャラガーのサインが入った500ポンドの7インチシングルを見たばかり。まさかここで、こんな幸運に出会えるとは。逸る気持ちを抑え、ページをそっとめくってみると…そこには、見慣れないサインが。誰だ、これ?
一瞬の混乱の後、冷静に考え至りました。ああ、なるほど。これはギャラガー兄弟のサインではなく、この写真集を撮影した写真家、トム・シーアンのサインだ、と。勝手に興奮し、勝手に落胆する。このジェットコースターのような感情の起伏もまた、レコード屋巡りの醍醐味の一つかもしれません。
奇跡との遭遇:Rough Trade Vintage ロンドンでの劇的な発見
Oasis関連の収穫もなく、中古盤の棚も一通り見終えた僕は、そろそろ次の店へ向かおうかと、階段の方へ足を向けました。その、まさに最後の瞬間でした。階段のすぐ脇に、見落としていた一角があることに気づいたのです。「NEW ARRIVALS」— 新着コーナーです。
「ここを掘っていなかったとは…」自分自身の詰めの甘さを少し反省しつつ、最後の望みをかけてその箱に手を伸ばしました。そして、数枚めくったところで、僕の指はぴたりと止まりました。そこにいたのは、伝説でした。
見過ごしかけた新着コーナーと、一枚のレコード
手に取ったのは、ジミ・ヘンドリックスの『Hendrix In The West』。青いジャケットを身にまとい、情熱的に歌い上げる彼の姿が印象的なライブアルバムです。

ジャケットには経年によるスレが多少あるものの、全体的なコンディションは悪くなさそう。しかし、問題はこれがいつ、どこでプレスされた盤なのかということです。ヴィンテージレコードの世界では、それがオリジナル盤(初回盤)なのか、再発盤なのかによって、その価値は天と地ほども変わってきます。
ジャケット裏のクレジット、レーベルのデザイン、盤そのものの重さ。自身の知識を総動員して鑑定を試みますが、確信には至りません。ここで下手に手を出すのは危険です。どうしたものか…。その時、僕の頭に現代の賢者が舞い降りました。
助っ人ChatGPT登場!ヴィンテージ盤の真贋を見極める現代的レコードディギング
そうだ、彼に聞いてみよう。僕はすぐさまスマートフォンを取り出し、ChatGPTを起動しました。そして、ジャケットの表と裏、レーベル面の写真を撮影し、送信。「このレコードについて教えてほしい」と。
数秒後、AIは驚くほど的確な初期分析を返してきました。
「タイトル: Hendrix in the West、レーベル: Polydor。ジャケットのデザインからUKまたは西ドイツ盤の可能性が高い。年代は1972年のオリジナルか、70年代中後期の再発盤。初期Polydorの特徴が見られるため、オリジナル盤の可能性は高いです。もし可能であれば、デッドワックス(盤の最も内側の無音溝)部分の刻印の写真を送ってください。それでプレス時期を正確に特定できます」
なんと的確な指示。僕はすぐさま店の照明にレコード盤をかざし、デッドワックス部分の写真を撮影して送信しました。光に反射して虹色に輝く盤面には、肉眼ではかろうじて読み取れるほどの小さな刻印が刻まれています。


伝説の幕開け、1971年のUKオリジナル盤を手に入れる
写真を受け取ったChatGPTからの最終回答は、僕を震わせるには十分すぎるものでした。
「解析完了。これは間違いありません。
タイトル:Hendrix In The West
カタログ番号:2302 018
レーベル:Polydor (UK)
年代:1971年オリジナル
マトリクス:A//1, B//1(完全なファーストプレスを示します)
評価:完全なUK初回オリジナル盤(初期スタンパー)です。極めて貴重な一枚です」
息を呑みました。ファーストプレス。しかも、マトリクス1/1。これは、このレコードが世に出た最初期のロットであることの証明です。ジミがこの世を去った翌年にリリースされた、伝説のギタリストの魂が込められたライブ盤。そのオリジナルの音源が、今、僕の手の中にある。
もはや迷いはありません。僕はそのレコードを胸に抱き、少し興奮気味にレジへと向かいました。価格は、この価値を考えれば破格と言えるものでした。これだから、ロンドンのレコード屋巡りはやめられないのです。
Rough Trade Vintage ロンドンへの訪問ガイドと店舗情報
この素晴らしい体験を、ぜひあなたにも。ここでは、Rough Trade Vintageへの訪問を計画している方のために、基本的な情報とアクセス方法をまとめておきます。
Rough Trade London soho: 店舗の基本情報
名称: Rough Trade Vintage
住所: 1 Marshall St, Carnaby, London W1F 7BE, United Kingdom
特徴: ファッションブランド「rag & bone」の地下1階にあります。見逃さないように注意してください。
品揃え: 中古レコード、カセットテープ、音楽関連書籍、Tシャツ、雑貨が中心です。新品は多くありません。
公式サイト: http://www.roughtrade.com/
Google Map:
アクセスと周辺のレコードストア
Rough Trade Vintageは、ソーホーの中心部、カーナビーストリートのすぐ近くに位置しています。最寄り駅はOxford Circus駅やPiccadilly Circus駅で、どちらからも徒歩数分です。このエリアには、Sister RayやReckless Recordsといった他の有名なソーホー レコード屋も集まっているので、一日かけてレコードディギングを楽しむには最高のロケーションです。
Rough Tradeのロンドン店舗網について (Rough Trade UK store)
Rough Tradeはロンドンに複数の店舗を展開しています。東部のRough Trade Eastは最大規模でライブイベントも頻繁に行われ、西部のRough Trade Westはノッティングヒルに佇む歴史ある店舗です。キングストンにも店舗(Rough Trade Kingston)があり、それぞれに個性があります。しかし、ヴィンテージ盤や中古のカセットテープを探すなら、このソーホーのRough Trade Vintageは絶対に外せない一軒です。
まとめ:なぜRough Trade Vintage ロンドンは再び訪れたくなるのか
ファッションと音楽が融合したユニークな空間。宝探しのようなカセットテープや書籍のコーナー。そして、今回僕が体験したような、予期せぬ奇跡との出会い。Rough Trade Vintage ロンドンは、単なるレコード屋ではありません。それは、訪れるたびに新たな発見と興奮を与えてくれる、カルチャーの発信基地なのです。
ジミ・ヘンドリックスのUK初回盤を手に、僕は満足感とともに店を後にしました。夜のソーホーの冷たい空気が、火照った体を心地よく冷ましてくれます。さて、次はPhonica Recordsだ。僕のロンドン・レコードディギングの夜は、まだ始まったばかりです。



