ヘルシンキの心臓部、ストックマンでムーミンの物語に迷い込む
夏のヘルシンキ、澄み切った青空の下を歩く時間は、それだけで心を豊かにしてくれる。アカデミア書店の2階に佇む「CAFE AALTO」で、フィンランドの森の恵み、ビルベリータルトを堪能した後、僕の足は自然と隣接する壮麗な建物へと向かっていた。北欧最大の百貨店、ストックマン(Stockmann)だ。
2019年にJALのビジネスクラスを利用したストップオーバーで訪れた際の記憶が鮮やかに蘇る。洗練されたインテリア雑貨フロアと、ローカルの活気に満ちた地下の食料品売り場。その魅力は、僕の記憶に深く刻まれていた。そして、今年はさらに特別な理由がある。ムーミンが80周年を迎え、ここストックマンで記念展が開催されているというのだ。これは、CityNomixとして見逃すわけにはいかない。
建物の前に立つと、その歴史的なファサードの上で、巨大なムーミンがこちらを見下ろしている。なんともフィンランドらしい、遊び心に満ちた歓迎だ。「STOCKMANN」という格式あるサインのすぐ後ろにちょこんと座るその姿に、思わず笑みがこぼれる。さあ、この扉の向こうに広がるムーミンの世界へと、足を踏み入れよう。
フィンランドのムーミンお土産は地下にあり?食のワンダーランドでの発見
まずは、記憶の中でも特に輝いていた地下の食料品売り場へ。エスカレーターを降りると、そこはまさに食の宝庫。フィンランドのスーパーマーケットがチョコレートとグミの楽園であることは、経験上知っている。僕のお目当ては、もちろんムーミン関連のお菓子や紅茶だ。
どこにあるだろうかと目を凝らして探す必要はなかった。フロアの一角に、ひとつのテーブルを丸ごと使ったムーミンコーナーが設けられていたのだ。フード商品だけでなく、マグカップなどのグッズまで並んでいる。その充実ぶりに、期待は一気に高まる。

棚には、色とりどりのパッケージが並ぶ。ベリーピッキングと名付けられた紅茶、オーガニックチョコレート、そしてフィンランド土産の定番、Fazer(ファッツェル)社のキシリトール入りキャンディー。キャラクターたちの愛らしいイラストは、どれもこれも「私を連れて帰って」と語りかけてくるようだ。

特に目を引いたのは、シックなモノクロデザインの「ムーミン ミステリーボックス」。アドベントカレンダー形式で24種類の紅茶が入っているらしい。いつものカラフルで可愛らしいムーミンのイメージとは一線を画す、少しミステリアスな雰囲気が逆に魅力的だ。

そして、お土産の候補として絶対に外せないのが、ホーロー製のマグカップ。ワイヤーバスケットに無造作に入れられたピンク色のマグは、軽くて丈夫。日常使いにも、旅の思い出としても最適だろう。今回はまず、味見も兼ねてキシリトール系のタブレットをいくつか購入することにした。スーパーマーケットを巡る前に、早くも大きな収穫だ。

暮らしに溶け込むアート、ストックマンで見つける珠玉のムーミングッズ
食料品売り場での幸先の良いスタートに満足し、次なる目的地、インテリア雑貨フロアへと向かう。百貨店だけあって、その品揃えは圧巻だ。目的のフロアに到着すると、すぐに僕の目はある一角に釘付けになった。フィンランドを代表する陶磁器ブランド、ARABIA(アラビア)の特設コーナーだ。
パステルカラーで統一されたその空間は、まるでムーミン谷の一部を切り取ってきたかのような夢のある空間だった。中央にはムーミン柄のベッドリネンがセットされたベッドが置かれ、優しい物語の世界へと誘われる。

ムーミン アラビア ストックマンで見つけた、日常を彩るアイテムたち
このコーナーには、マグカップやプレートといった食器類はもちろん、タオルなどのホームグッズまで幅広く揃えられている。特に印象的だったのは、タオルのディスプレイエリア。ミントグリーンの壁に色とりどりのムーミンタオルが掛けられ、その隣には古びた木製のドアが。まるでムーミン屋敷に迷い込んだかのような錯覚に陥る、心憎い演出だ。

そして、ARABIAのムーミンシリーズの中でも特に人気の高い「ラブ」コレクションのマグカップも発見。ムーミントロールとスノークのおじょうさんが優しく抱きしめ合う、心温まるイラスト。今回は爽やかなライトブルーの新色が登場していた。棚に整然と積み重ねられたその姿は、それ自体がひとつのアートのようだ。


他にも、ムーミントロールとムーミンママがリビングでくつろぐワンシーンが描かれた「サロンの午後」というデザインのピッチャーや、フィンランドの老舗ブランドFiskars(フィスカース)社製のはさみなど、有名ブランドとのコラボレーショングッズがずらりと並ぶ。単なるキャラクターグッズではなく、フィンランドデザインの粋を集めた「作品」としての魅力に溢れている。ひとつひとつ手に取るたびに、ため息がもれた。

ストックマン ムーミン 80周年記念展:時を超えて愛される物語の軌跡
さて、ショッピングの調査は一旦ここまで。気づけば外はもう夜の気配が漂い始めている。ホテルに戻る前に、本日のメインイベントであるムーミン80周年記念展を訪れなければ。しかし、広大な百貨店のどこで…?
案内図を頼りに探すと、どうやらカスタマーサービスセンターの近くらしい。少し奥まった通路を進んでいくと、緑を基調とした落ち着いた空間が目に飛び込んできた。あった。ガラスケースの中から、大きなムーミントロールが「ようこそ」と手を振ってくれているようだ。

会場は広々としており、緑色のカーペットが印象的だ。壁にはフィンランド語、スウェーデン語、英語で歓迎の言葉が記されている。エントランスではスノークのおじょうさんの立体像がお出迎え。壁に描かれたリトルミイのシルエットも可愛らしく、これから始まる世界への期待感を高めてくれる。

ストックマンとムーミンの深い絆
展示の中核をなしていたのは、ムーミンとストックマンの長年にわたるコラボレーションの歴史を綴った年表パネルだ。「めまぐるしい1950年代」と題されたセクションでは、書籍の出版やコミックスの連載に加え、ストックマンとの協力によって初期のグッズが開発され、ムーミンが世界的な人気を獲得していく過程が詳しく紹介されていた。単なる販売場所ではなく、物語を世界に広めるための重要なパートナーだったことが伺える。

展示空間そのものにも工夫が凝らされている。順路を進むと、壁にひょっこりとムーミンが隠れていたりする。こうした遊び心あふれる演出が、訪れる人を楽しませてくれる。展示物だけでなく、空間全体でムーミンの世界観を表現しようという意図が伝わってきた。

思い出を刻むフォトスポット
そして、ムーミンファンにはたまらないフォトスポットもしっかりと用意されていた。ムーミン谷の仲間たちと記念撮影ができる顔はめパネルは、きっと多くの笑顔を生み出していることだろう。その隣には、1956年に原作者トーベ・ヤンソン自身が手掛けたストックマンのショーウィンドウの貴重な白黒写真も展示されている。過去と現在が交差するこの空間で、ムーミンの物語がいかに長く愛され続けてきたかを実感することができた。

まとめ:ヘルシンキ旅行で訪れるべき、ストックマンとムーミンの幸福な関係
ヘルシンキ初日の締めくくりに訪れたストックマンは、期待をはるかに超えるムーミンのワンダーランドだった。地下の食品売り場で見つけた心ときめくお土産たち、インテリアフロアで出会った暮らしを豊かにするデザイングッズ、そして80年という長い歴史の重みと愛情を感じさせてくれた記念展。
ここは単に商品が並ぶ場所ではない。ムーミンという物語が生まれ、育まれ、そしてフィンランドの人々の暮らしに深く根付いてきた軌跡を体感できる場所だ。ヘルシンキを訪れるなら、特にムーミンが好きなら、この北欧最大の百貨店は絶対に外せない。初日からこんなにもムーミンを堪能できた幸福感に包まれながら、僕は夜のヘルシンキの街をホテルへと歩き始めたのだった。「ありがとう、ムーミン。これからもよろしくね」と心の中で呟きながら。
ストックマン ヘルシンキ中央店 (Stockmann Helsinki City Center)
公式サイト: https://info.stockmann.com/info/tavaratalot/helsingin-keskusta/
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