記憶の扉を開ける、東京のフィンランド。カフェアアルト丸の内、その口コミと実体験
何気ない平日の昼休みだった。思考の合間にブラウザを開くと、パーソナライズされたニュースフィードが目に飛び込んでくる。そこに、見慣れた、そして懐かしい名前があった。「CAFE AALTO」。思わず指が止まる。記事のタイトルは、そのカフェが東京に初出店するという衝撃的なニュースを伝えていた。しかも、場所は丸の内、大手町エリア。私のオフィスから目と鼻の先だ。
数年前、ヘルシンキの街を歩いた記憶が鮮やかに蘇る。アルヴァ・アアルトが設計したアカデミア書店の2階、吹き抜けの空間に静かに佇むあのカフェ。そこで過ごした穏やかな時間。ただ一つ、心残りがあった。名物のサーモンスープを食べ損ねてしまったのだ。あの時の小さな後悔が、今、東京で果たされるかもしれない。過去のヘルシンキ滞在記はこちらで綴っている。(ヘルシンキ CAFE AALTO訪問記)
オープンは昨日、8月29日。これはもう、行くしかない。高鳴る胸を抑え、すぐさまスケジュールを調整した。思い出の味との再会、そして新しい体験への期待を胸に、私は丸の内へと向かった。
丸の内の洗練と北欧の温もりが交差する場所「Spiral Garden」
ニュースによると、カフェは単独店舗ではなく「Spiral Garden」というライフスタイルショップの奥に併設されているという。新丸ビルの中、洗練された空気が流れる一角にその店はあった。以前訪れた際には、現代アートが展示されていたユニークな空間。その記憶の場所が、今、新しい物語の舞台になろうとしていた。

ガラス張りのエントランスを抜けると、国内外からセレクトされた美しいテーブルウェアや雑貨が並ぶ。その空間を奥へと進むと、青いデジタルサイネージが「CAFE AALTO」の存在を静かに知らせていた。アカデミア書店の知的な喧騒の中にあった本店とは全く違う、モダンでミニマルなアプローチ。しかし、それはそれで東京らしいと感じた。

カフェスペースに足を踏み入れると、天井近くの梁に輝く金色の「CAFE AALTO」の文字。そうだ、このロゴだ。本店と同じ書体が、私を瞬時にヘルシンキの記憶へと引き戻す。天井から下がる金色のペンダントライトも、あの場所で見たものと同じデザイン。記憶の断片が繋がり、期待が確信に変わっていく。

一方で、本店との違いも明らかだった。大理石のカウンターには、本店にあったような大きなショーケースはない。代わりに、カウンター横にシナモンバンが並び、「店内飲食のみ」の小さな案内が添えられていた。持ち帰りはできないようだ。この小さな発見一つひとつが、東京店の個性を形作っているのだろう。
【カフェアアルト 丸の内 口コミ】混雑と待ち時間のリアルな体験談
オープン翌日の平日。いくらなんでも、と少し油断していたのかもしれない。店の前には、すでに長い行列ができていた。受付のリストに名前と人数を記入するシステム。リストを見ると、私の前にはすでに10組以上の名前が並んでいた。うかつだった。開店と同時に来るべきだったと、早くも後悔がよぎる。
幸い、店内には待機用の椅子がいくつか用意されていた。しばらくして中の椅子が空き、腰を下ろして待つことに。しかし、ここからが長かった。結果的に、席に案内されるまで1時間以上を要したのだ。後の予定が迫っており、少し焦りを感じ始める。
待ち時間さえもデザインする、開放的な窓からの眺め
ただ、この待ち時間は決して苦痛なだけではなかった。店内は壁一面が大きな窓になっており、驚くほど開放的だ。本店の、アカデミア書店の吹き抜けを見下ろす景色とはまた違う、都会的なパノラマが広がっている。

窓の外には、皇居周辺の豊かな緑。その向こうには、絶えず変化し続ける東京のビル群。青空を貫く建設中のクレーンさえも、この街のダイナミズムを象徴するアートのように見える。この景色を眺めていると、待つという行為が、空間を味わうための時間へと変わっていくようだった。このカフェが持つポテンシャルの高さを感じさせる、素晴らしい眺めだ。
期待と迷いが交錯するメニュー選び
ようやく席に通され、すぐにメニューを開いた。時間は限られている。逸る気持ちを抑え、注文を決めることに集中した。私の心は、ほぼ決まっていた。

ヘルシンキのリベンジ「サーモンスープ」と外せない「ビルベリータルト」
まずは、ヘルシンキでの心残りであるサーモンスープ。これは絶対に外せない。メニューを見ると、サラダとシナモンバンがセットになった「CAFE AALTO SET」がある。これなら、フィンランドの味を一度に楽しめる。迷わずこれに決めた。
そして、もう一つの主役はビルベリータルト。ヘルシンキで食べた、あの甘酸っぱい記憶を確かめたい。これも必須だ。
さらに、何か軽食も欲しい。メニューには「小エビのクロワッサンサンド」の文字。クロワッサンという軽やかさが今の気分にぴったりだ。これも追加しよう。
名前に惹かれた「クラフトボタニカルスカッシュ」
飲み物はどうしようか。コーヒーの気分でもなく、午後の予定を考えるとアルコールも違う。そんな時、「クラフトボタニカルスカッシュ」という名前に目が留まった。「クラフト」という言葉の響きに、私は弱い。爽やかな炭酸飲料が、今の高揚した気分をクールダウンさせてくれるかもしれない。これと、タルトに合わせるためのシンプルな紅茶を注文することにした。
【カフェアアルト 丸の内 口コミ】正直な実食レビュー:味、値段、そしてオペレーション
注文を終え、ほっと一息。しかし、ここからが第二の誤算だった。とにかく、料理が出てこないのだ。飲み物さえも、なかなか運ばれてこない。オープン直後で忙しいのは理解できるが、それにしても時間がかかりすぎているように感じた。
しばらくして、ようやくセットのグリーンサラダが到着。しかし、そこからまた長い沈黙が続く。後から来た隣の席に、次々と料理が運ばれていくのが見える。少し、不安がよぎる。
サーモンスープとシナモンバン:ヘルシンキ本店との違いを考察
待ちに待ったサーモンスープが運ばれてきた。想像していたよりも少し小ぶりな器。ディルの香りがふわりと立ち上る。

一口すすると、優しいクリームの味わいが広がる。しかし、正直な感想を言えば、少し薄味に感じられた。ヘルシンキで食べた「カペリ」や「エクベリ」の濃厚なサーモンスープを想像していたからかもしれない。これが本店の味なのか、それとも東京向けのアレンジなのか。ヘルシンキで食べなかったことが、今更ながら悔やまれる。

セットのシナモンバンは、カルダモンの風味が豊かで素晴らしい。ただ、こちらも甘さはかなり控えめ。北欧のシナモンロールらしい、素朴な味わいだ。
救いとなった美味しさ:小エビのクロワッサンサンドとスカッシュ
あまりの遅さに、さすがに店員さんに声をかけた。すると、ほどなくして「小エビのクロワッサンサンド」が運ばれてきた。これは、文句なしに美味しかった。

サクサクのクロワッサンに、プリプリの小エビがたっぷり。ディルが香るクリーミーなソースと野菜のフレッシュさが完璧なバランスだ。この一皿が美味しかっただけに、オペレーションの混乱が余計に残念に思えてしまう。
そして、「クラフトボタニカルスカッシュ」も期待以上の美味しさだった。ハーブの複雑で爽やかな香りが鼻を抜け、心地よい炭酸が喉を潤す。これは間違いなくおすすめできる一杯だ。
記憶との対話:ビルベリータルトの味わい
最後に、飲み物の紅茶とビルベリータルトが同時に到着した。いよいよ、記憶の味との再会の時だ。

見た目は、ヘルシンキで見たものとよく似ている。しかし、一口食べてみて、少し違和感を覚えた。私の記憶が確かならば、本店のタルトはもっとヨーグルトのような酸味が強く、さっぱりとしていたはずだ。丸の内店のタルトは、それよりも甘みが強く、よりデザートらしい仕上がりに感じられた。もちろん、これはこれで非常に美味しい。ただ、あの時の感動を求めていた私にとっては、「そう、これこれ!」という合言葉が喉まで出かかって、引っ込んでしまったような、そんなもどかしさがあった。
会計時の出来事と、未来への期待
気づけば、打ち合わせの時間が迫っていた。急いで席を立ち、レジへ向かう。正直、今日の体験には少しがっかりした部分もあった。そう思いながら会計を待っていると、お店の方が私にこう言ったのだ。
「本日は至らぬ点が多く、大変申し訳ございませんでした。お料理もドリンクもお待たせしてしまい、失礼いたしました。また来ていただけるよう、スタッフ一同頑張りますので、よろしくお願いいたします。」
何も言っていないのに、先方から発せられたその言葉に、私は少し驚いた。そして、オープンしたばかりの店内で、必死に店を回そうと奮闘していたスタッフの方々の姿を思い出した。そうだ、彼らも一生懸命なのだ。その誠実な一言で、私の心のもやもやはすっと消えていった。思い出の店が東京にできてくれたこと自体が、奇跡のようなことなのだから。
【総括】カフェアアルト 丸の内、私の最終的な口コミと評価
CAFE AALTO 丸の内店は、素晴らしいポテンシャルを秘めたカフェだ。窓から見える景色は都内でも屈指の美しさであり、空間そのものが持つ価値は非常に高い。いくつかのメニューは本当に美味しかった。
一方で、オープン直後ということもあり、オペレーション面での課題は明らかだ。特に、休日の混雑や待ち時間は覚悟した方がいいだろう。時間に余裕のある日に訪れることを強くお勧めする。
味に関しても、ヘルシンキ本店との違いをどう捉えるかで評価は分かれるかもしれない。しかし、これは東京というフィルターを通して再構築された、新しい「CAFE AALTO」の物語の始まりなのだと思う。「頑張ります」と言ってくれたスタッフの方々の言葉を信じたい。私も、この店が東京に根付いていく物語を、一人のファンとして見守り続けたい。そう、心から応援している。
【店舗情報】
店名:CAFE AALTO(カフェ・アアルト)
住所:東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング 3F Spiral Garden内
公式サイト: https://www.spiral.co.jp/shoplist/cafe-aalto
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