ホノルルの眩しい日差しと、ワイキキの喧騒。私たちが「ハワイ」と聞いて思い浮かべる典型的な風景から少し離れ、ダイヤモンドヘッドの麓、ブラックポイントの静寂な海岸線へ向かいます。そこには、太平洋の青さとあまりにも鮮烈なコントラストを描く、異世界への扉が存在します。
CityNomixです。今回は、単なる観光スポットの枠を超えた、圧倒的な美と狂気すら感じるほどの情熱が注ぎ込まれた場所、シャングリラ・ハワイ(Shangri La Museum of Islamic Art, Culture & Design)へと皆さんをご案内します。
アメリカの富豪ドリス・デュークが、その生涯をかけて築き上げたこの邸宅は、ハワイというトロピカルな楽園に突如として現れた「イスラム芸術の聖域」です。なぜハワイにイスラム建築なのか? その答えを探る旅は、あなたの知的好奇心を強く刺激することでしょう。

1. 楽園の果てに現れる「異郷」への入り口
ワイキキから車で約15分。高級住宅地カハラのさらに奥、ブラックポイントの突き当たりにその邸宅はあります。しかし、ここへは直接自家用車で乗り付けることはできません。ホノルル美術館(HoMA)からの公式ツアーに参加し、シャトルバスで向かうことだけが、この禁断の扉を開く唯一の方法です。
バスを降り、木々のトンネルを抜けると、そこに現れるのは白亜のエントランス。まず私たちの目を奪うのは、門の左右に鎮座する2体のラクダの石像です。

重厚な木彫りの扉が開かれた瞬間、空気の質が変わります。ハワイの湿った風が一瞬止み、数千キロ離れた砂漠のオアシスに迷い込んだような錯覚。これが、ドリス・デュークが1937年に完成させた「シャングリ・ラ」の世界です。
ドリス・デュークの情熱と執念
タバコ王の娘として莫大な遺産を受け継いだドリス・デューク。彼女がイスラム芸術に魅せられたきっかけは、1935年の新婚旅行でした。インドのタージ・マハルに衝撃を受け、中東各国を巡る中で、彼女の収集熱に火がつきます。そして、新婚旅行の帰路に立ち寄ったハワイの美しさに魅了され、「ここに私のイスラム宮殿を建てる」と決意したのです。
彼女の決断は、単なる富豪の道楽ではありませんでした。彼女は自ら設計に関わり、現地の職人をハワイに呼び寄せ、あるいは現地の建築の一部をそのまま船で輸送し、徹底的に本物を追求しました。
2. 建築とインテリアの極致:光と影の迷宮
邸宅内部に足を踏み入れると、そこはまさに「光と影の迷宮」です。スペイン、モロッコ、エジプト、シリア、イラン、インド……。時代も国も異なるイスラム世界の至宝が、ドリスの美意識というフィルターを通して見事に融合しています。

セントラル・コートヤードの静寂
邸宅の中心に位置する「セントラル・コートヤード(中庭)」は、この建築のハイライトの一つです。空に向かって開かれた空間には、樹齢を重ねた木が影を落とし、壁面は鮮やかなタイルで覆われています。

特に注目してほしいのが、この青を基調とした星形の幾何学タイルです。イランから持ち込まれたこれらのタイルは、太陽の角度によってその表情を変えます。強い日差しを浴びて輝くターコイズブルーは、ハワイの海の色と呼応しているようにも見えます。
色彩の洪水:リビングとインテリア
室内へと進むと、視覚的な情報量の多さに圧倒されます。しかし、不思議と雑多な印象はありません。それは、イスラム建築特有の幾何学模様(アラベスク)が、空間に秩序をもたらしているからでしょう。

この俯瞰ショットを見てください。鮮やかなオレンジのソファ、床の幾何学タイル、そしてステンドグラスから差し込む光。これらが喧嘩することなく調和しているのは、ドリスの色彩感覚の賜物です。彼女は「伝統的な展示」にとらわれず、自分が美しいと思う配置で、時代や産地の異なるアートを組み合わせました。

ふと天井を見上げれば、そこには息を呑むような木工細工が。複雑に組み合わされた寄木細工と、星形の文様。スペインのムデハル様式の影響を受けたこの天井は、職人技の結晶です。首が痛くなるのを忘れて、その幾何学の宇宙に見入ってしまいます。

幻想的な「テント・ルーム」
そして、多くの来訪者が足を止めるのが、この「テント・ルーム」です。エジプトのテント職人が作ったアップリケの布で部屋全体、天井までもが覆われています。まるで砂漠の遊牧民のテントの中にいるかのような、それでいてシャンデリアが煌めく豪華絢爛な空間。ここでは現実感が希薄になり、ドリスの夢の中に迷い込んだような感覚に陥ります。
3. ハワイの自然との融合:太平洋を借景にする贅沢
シャングリラ・ハワイが世界中の他のイスラム美術館と決定的に異なる点。それは、背景に広がる圧倒的な「太平洋」と「ダイヤモンドヘッド」の存在です。

重厚な鉄格子の向こうに見える、ハワイの象徴ダイヤモンドヘッド。イスラムのアーチ越しに眺めるハワイの景色は、ここでしか見られない唯一無二のアートです。人工美の極致であるイスラム建築が、荒々しい自然を額縁のように切り取ることで、両者の美しさが際立っています。

プライベートな海、ムガル・ガーデン
庭園に出ると、そこには海水を引き込んだプライベートプールがあります。黒い溶岩石(ラバロック)で組まれた防波堤の向こうには、白波が立つ太平洋。人工のプールと外洋が、岩一つ隔てて隣り合っているのです。

ラナイ(テラス)のガラスのテーブルに青空が映り込む様子は、あまりにもフォトジェニック。ここでドリスは、世界中の著名人を招き、パーティーを開いたのでしょう。波の音だけが響くこの場所で、彼女は何を思っていたのでしょうか。

山側には、インドのムガル庭園を模した整形式庭園が広がります。長い水路が視線を遠くの山へと導く設計は、タージ・マハルなどの庭園様式そのもの。しかし、植えられているのはハワイの植物たち。この「文化のハイブリッド」こそが、シャングリラの真骨頂です。
4. 魅惑のディテール:ミハラーブとジュエリー
細部へのこだわりも尋常ではありません。例えば、礼拝の方向(メッカ)を示す壁龕「ミハラーブ」。

13世紀イランのラスター彩タイルで作られたこのミハラーブは、美術館級の国宝ものです。表面の金属的な輝きと、びっしりと書き込まれたカリグラフィー。ドリスはこれをオークションで競り落とし、リビングルームの暖炉の上に飾りました(!)。本来の宗教的な意味合いよりも、その造形美を愛した彼女らしいエピソードです。

また、彼女が集めたジュエリーのコレクションも必見です。ムガル帝国時代のゴールドやエメラルド、パールをふんだんに使った装飾品たちは、ショーケースの中で今も妖艶な輝きを放っています。
5. 結び・訪問ガイド:次のハワイ旅に向けて
シャングリラは、単なる「豪邸拝見」のツアーではありません。一人の女性が、異文化への敬意と自身の美学を融合させ、生涯をかけて完成させた「作品」の中を歩く体験です。

「記録ではなく体験を」。Photomoが大切にしているテーマが、ここでは自然と体現されています。風の音、海の匂い、タイルの冷たさ、圧倒的な視覚体験。それら全てが、あなたのハワイ観をアップデートしてくれるはずです。
最後に、CityNomixから実践的なアドバイスを。
訪問のためのTIPS
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- 完全予約制です: チケットは非常に人気が高く、発売と同時に売り切れることもあります。訪問予定日の2ヶ月前の月初めに予約サイトをチェックすることをお勧めします。
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- アクセス: 個人での直接訪問は禁止されています。必ずホノルル美術館(HoMA)に集合し、専用シャトルバスで移動します。
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- 服装と荷物: 邸内は土足厳禁です。また、大きな荷物は持ち込めないため、美術館のロッカーを利用しましょう。
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- 所要時間: 移動を含めて約2時間半〜3時間を見ておくと良いでしょう。
次のハワイ旅行では、ビーチサンダルを脱ぎ捨てて、イスラムの幾何学模様と太平洋の青が交差するこの場所へ、ぜひ足を運んでみてください。そこには、まだ見ぬハワイの深淵が待っています。
関連情報の検索について
この記事を読んでシャングリラ・ハワイに興味を持たれた方は、以下のキーワードでさらに詳しい情報を探してみてください。
シャングリラ ハワイ 予約
予約はホノルル美術館(HoMA)の公式サイトからのみ可能です。日本語の予約代行サービスもありますが、基本は英語サイトでの直接予約が最も確実で安価です。「Shangri La Tour Tickets」のページを探し、カレンダーがオープンになるタイミング(通常は2ヶ月前)を狙うのが鉄則です。
シャングリラツアー ハワイ
ツアーには、ガイド付きツアーと、オーディオガイドを聞きながら自由に回れるセルフガイドツアーがあります。自分のペースで写真を撮りたいPhotomo読者の皆さんには、セルフガイドツアーを強くお勧めします。日本語のオーディオガイドアプリも用意されています。
ハワイ シャングリラ邸
「邸宅」としての側面に注目すると、ドリス・デュークの生涯や、彼女がどのようにしてこの土地を選んだかという歴史的背景が見えてきます。1930年代のハワイの建築史においても重要な位置を占める建物です。
ホノルル 美術館 シャングリラツアー 予約
シャングリラツアーのチケットには、ホノルル美術館(HoMA)の入館料も含まれています。ツアーの前後には、ダウンタウンにある美術館本館で、葛飾北斎の浮世絵や現代アートを楽しむのも素晴らしいプランです。
シャングリラ邸 レビュー
実際に訪れた人の口コミを確認することで、当日の天候による景色の違いや、持っていくべきもの(サングラスや歩きやすい靴など)のリアルな情報を得ることができます。
公式サイト:http://www.shangrilahawaii.org/
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