記憶の断片から、琥珀の輝きへ
物事の始まりには、いつも小さなきっかけがある。私にとって、それは三田にあった「中国飯店」の一杯の坦々麺だった。クライアントとの打ち合わせの後、偶然立ち寄ったその店で出会った味は、私の記憶に深く刻まれた。以来、その界隈に用事があるたびに、私は吸い寄せられるようにその店の暖簾をくぐっていた。
そんなある日、あの「中国飯店」の上位ブランドである「琥珀宮」が、パレスホテル東京の中にあると知った。皇居外苑の緑を望む、東京の中心。いつか、その扉を開けてみたい。漠然とした憧れは、静かに、しかし確かに私の心の中で育っていった。
そして2025年10月、秋晴れの空が丸の内を照らす日。あるきっかけが訪れ、私はついにその憧れの場所、琥珀宮へと足を運ぶことになったのだ。この記事は、その日の体験を綴った、私的な記録である。
静寂と期待が交差するエントランス
パレスホテル東京の5階。凛とした空気が漂うフロアの一角に、琥珀宮は静かに佇んでいた。木製の格子と柔らかな光を放つ丸い提灯が印象的なエントランスは、これから始まる美食体験への期待感を静かに高めてくれる。

一歩足を踏み入れると、ダークウッドを基調としたモダンで洗練された空間が広がる。奥へと続く石畳の廊下を歩むその時間さえも、コースの一部であるかのように感じられた。日常から非日常へと誘う、見事な空間演出だ。
珠玉の物語、「真珠コース」との出会い
席に着き、メニューを拝見する。ディナーコースは「珊瑚」と「真珠」の二つ。どちらも北京ダックを含む魅力的な内容だが、この特別な機会を祝して、私は迷わず「琥珀宮 真珠コース」を選んだ。

まずは、ノンアルコールのスパークリングワインで乾杯。ランチタイムの訪問だったため、アルコールは控えることにした。フランス産の「ピエール・ゼロ シャルドネ」は、美しい黄金色と繊細な泡立ちで、気分を十分に高めてくれる一杯だった。

これから始まる物語のプロローグのように、お品書きがテーブルに置かれる。北京ダック、海鮮の青紫蘇炒め、牛ホホ肉の煮込み…。これから出会うであろう一皿一皿に、胸が躍るのを感じた。

焼き物入り前菜盛り合わせ:物語の序章
まず運ばれてきたのは、「焼き物入り前菜盛り合わせ」。黄色い縁取りの美しい皿の上に、芸術品のように盛り付けられている。皮付き豚バラの焼物は、皮のクリスピーな食感と脂の甘みが絶妙だ。赤いチャーシューはしっとりと柔らかく、噛むほどに旨味が広がる。

クラゲの和え物の小気味よい歯ごたえも心地よい。これから続くコースへの期待を裏切らない、完璧なスタートだった。
海鮮の青紫蘇炒め 翡翠ソース:色彩と香りの饗宴
次に登場したのは、目にも鮮やかな一皿。貫入の入った白い器に、翡翠色のソースが映える。つぶ貝やホタテなどの海鮮のプリプリとした食感に、青紫蘇の爽やかな香りが鼻を抜ける。

添えられた蓮根のシャキシャキ感と、銀杏のほろ苦さが良いアクセントになっている。複雑でありながら見事に調和した味わいは、まさにプロの仕事だ。
ハイライト:琥珀宮の北京ダックという体験
そして、ついにこの日の主役が登場する。艶やかに輝く飴色の北京ダック。スタッフの方が、切り分ける前にその美しい姿をテーブルまで見せに来てくれた。「お写真、どうぞ」という優しい一言が、とても嬉しかった。

このプレゼンテーションは、単なる食事を「体験」へと昇華させる。食べる前から五感が刺激され、期待は最高潮に達する。これこそが、東京で高級中華を味わう醍醐味だろう。
しばらくして、専門のスタッフによって丁寧に巻かれた北京ダックが、一皿ずつ運ばれてくる。薄いながらも、もっちりとした皮。その中に包まれているのは、パリパリに焼かれた皮と、驚くほどジューシーな肉。そこに甘辛い味噌のソースが絡み合い、口の中で完璧なハーモニーを奏でる。

一枚、また一枚と、夢中になって味わった。丸の内で北京ダックを食べるなら、この感動をぜひ体験してほしい。多くの口コミで絶賛される理由が、この一皿に凝縮されていた。
山の幸、蕎麦の実の極上蒸しスープ:滋味深い間奏曲
北京ダックの興奮を優しく鎮めるように、温かいスープが供された。澄んだ琥珀色のスープには、きのこなどの山の幸と、プチプチとした食感が楽しい蕎麦の実がたっぷりと入っている。身体の芯から温まるような、滋味深く、優しい味わいだ。

鮮魚の衣揚げ 塩卵ソース:食感のコントラスト
鮮やかな赤い皿がテーブルを彩る。サクッと揚げられた衣の中に、ふっくらと蒸された鮮魚。そこに、濃厚でコクのある塩卵ソースが絶妙に絡む。

衣のクリスピーな食感と、魚のふわふわとした柔らかさ。そして、塩卵ソースの独特な塩味と旨味。この三位一体の攻撃に、ただただ唸るしかなかった。ブロッコリーの存在が、良い箸休めになっているのも計算され尽くされている。
牛ホホ肉の煮込み 辛味四川ソース:とろけるフィナーレ
コースも終盤。美しいオレンジ色の器で運ばれてきたのは、牛ホホ肉の煮込みだ。箸を入れると、抵抗なくほろりと崩れる。口に運べば、想像を遥かに超えるとろけるような柔らかさ。

花椒の効いたピリ辛の四川ソースが、食欲を再び掻き立てる。濃厚な味わいだが、添えられた青梗菜の瑞々しさが、後味をさっぱりとさせてくれる。
蟹肉とセリのチャーハン:完璧な締めくくり
締めは、蟹肉とセリのチャーハン。中華のコースの最後に出てくるチャーハンは、時として重く感じることがある。しかし、このチャーハンは違った。パラパラに炒められたご飯は驚くほど軽く、脂っこさを全く感じさせない。

たっぷりの蟹の旨味と、セリの爽やかな香りが絶妙なバランスだ。最後まで飽きることなく、ペロリと平らげてしまった。
白桃の杏仁豆腐:清涼な余韻
最後のデザートは、ガラスの器が涼しげな杏仁豆腐。滑らかな杏仁豆腐の上には、大ぶりにカットされた瑞々しい白桃が贅沢に載っている。甘すぎず、上品な味わいが、素晴らしいコースの締めくくりにふさわしい。

心に残るホスピタリティ
料理の素晴らしさはもちろんのこと、琥珀宮での体験を特別なものにしたのは、スタッフの方々のホスピタリティだった。常にテーブルに気を配り、絶妙なタイミングで声をかけてくれる。その物腰は柔らかく、心からリラックスして食事を楽しむことができた。
コースの途中で頼んだジャスミン茶も、ポットで提供され、少なくなるとすぐにおかわりを注いでくれる。美しい茶葉がゆっくりと開く様子を眺めながら、豊かな香りに癒された。こうした細やかな心遣いが、店の格を物語っている。

琥珀宮の体験を計画するあなたへ:実践的情報
この記事を読んで、琥珀宮に興味を持った方のために、いくつかの実践的な情報をまとめておきたい。
琥珀宮 メニュー
琥珀宮には、ランチ、ディナー共に複数のコースメニューが用意されている。今回私がいただいた「真珠コース」のように、名物の北京ダックが含まれるコースが人気だ。アラカルトメニューも充実しているため、シーンに合わせて選ぶことができる。季節ごとにメニューが変わる可能性もあるので、公式サイトで最新情報を確認することをおすすめする。
中国 飯店 琥珀宮 予約 / 琥珀宮 ランチ 予約
特に週末やディナータイムは混み合うことが予想されるため、事前予約は必須と言えるだろう。予約は公式サイトのオンライン予約システム、または電話で可能だ。ランチタイムも人気が高いため、早めの予約が賢明だ。
琥珀宮 一休.
レストラン予約サイト「一休.com」でも、琥珀宮の予約が可能だ。サイトによっては限定プランや特典が用意されていることもあるため、比較検討してみるのも良いだろう。ポイントが貯まる・使えるといったメリットもある。
琥珀宮 ランチ メニュー
ランチタイムには、ディナーよりもリーズナブルな価格で楽しめるコースやセットメニューが用意されていることが多い。初めて訪れる方や、気軽に琥珀宮の味を試してみたい方には、ランチの利用が特におすすめだ。
琥珀宮 写真
店内は落ち着いた雰囲気だが、スタッフの方は写真撮影に協力的だ。特に北京ダックのプレゼンテーションは絶好のシャッターチャンス。ただし、他のお客様への配慮は忘れずに。この記事で紹介した写真が、店内の雰囲気や料理のイメージを掴む参考になれば幸いだ。
パレスホテル 琥珀宮
琥珀宮はパレスホテル東京の5階に位置している。東京駅からも徒歩圏内でアクセスは抜群だ。食事の前後にホテルのラウンジでお茶を楽しんだり、皇居外苑を散策したりするのも素敵な過ごし方だろう。
琥珀色の輝きは、また私を誘うだろう
前菜からデザートまで、驚くほどスムーズに、そして心地よく完食できた。それなりのボリュームがあったはずなのに、少しも胃が重くない。それは、計算し尽くされた味付けと、上質な食材のなせる技なのだろう。
一杯の坦々麺から始まった物語は、パレスホテルという最高の舞台で、忘れられない食体験として幕を閉じた。しかし、これは終わりではない。琥珀宮の輝きは、きっとまた私をこの場所に誘うだろう。
ご馳走様でした。そして、また必ず訪れます。
公式サイト:https://www.chuugokuhanten.com/store/kohakukyu.html
Google Map:



