表参道。洗練されたショップが軒を連ね、常に新しいトレンドが生まれるこの街はインスピレーションの宝庫。クライアントとの打ち合わせを終えた火曜日の夕暮れ時。私の足は迷うことなくひとつの目的地へと向かっていた。IITTALA&MOOMIN ARABIA表参道店。
フィンランドには、2019年のWeb Summit帰りに機材トラブルで予期せず1日滞在して、どこか特別な思い入れがある。いつか再訪したいと願いながら、まだその機会は訪れていない。だからこそ、日本でその空気を感じられるこの場所への期待は大きかった。
イッタラは、その当時から気になっていたブランド。デパートで見かけることはあっても、品揃えは限られている。ここ表参道に旗艦店があると知っていつかはと思っていた。日々の忙しさにかまけてなかなか足を運べずにいた。「行ける時に行かねば」。そんな思いが、今日、私を突き動かした。
閉店の序章とは知らずに:心ときめく北欧デザインの世界へ
ショップに到着すると、まず目に飛び込んできたのは「MOOMIN ARABIA」の文字。そう、ここはイッタラだけでなく、アラビアと愛らしいムーミンの世界観を感じる特別な場所だ。

外観からして、もうカワイイ。期待に胸を膨らませて一歩足を踏み入れると、そこはまさにフィンランドデザインの聖域だった。

可憐なるムーミン谷の住人たちとの出会い
店内は奥へと続き、まずはムーミンアラビアのセクションが広がる。最初に目に飛び込んできたのは、日本限定デザインのコレクションだ。キャラクターたちが描かれた小皿やミニマグは、日本の「カワイイ」文化とフィンランドの温かみが見事に融合している。

左手に進むと、食器以外のグッズも充実している。そこで私の心を鷲掴みにしたのが、Nordicbuddies(ノルディックバディーズ)製のキャップだった。ムーミンといえばおおらかで優しいイメージが強い。このキャップに刺繍されているのは、なんと怒った表情のムーミン!このギャップがたまらなく愛らしい。デニム生地の風合いも良く、後ろ姿の刺繍やブランドロゴもおしゃれだ。Nordicbuddiesはフィンランドと日本の会社でクールなムーミン商品を発信している。

IMG_0669.jpg Nordicbuddies製 怒ったムーミンの刺繍キャップ
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さらに奥へ進むと、壁一面にムーミンアラビアのマグカップがずらりと並ぶ圧巻の光景が。コレクターならずとも心躍る空間だ。ふと柱に目をやると、歴代マグの年表ポスターが。1990年から続くムーミンマグの歴史が一望できる。スタッフの方に教えてもらったのだが、マグの裏には製造年が記されているそうだ。なるほど、これでフィンランドでヴィンテージ品を探す際にも役立つ知識を得た。

そして、2025年はムーミン原作80周年という記念すべき年。店内には特設コーナーが設けられ、マグカップやフィギュア、テキスタイルなど、多彩な80周年記念限定グッズが並んでいた。これだけの数のムーミンアイテムを一度に手に取って見られるのは、ファンにとっては至福の時間だろう。

アラビアの粋とイッタラの輝き
ムーミンアラビアのエリアを抜けると、そこはアラビア製品が並ぶ空間。スタッフの方に伺うと、表参道店とオンラインショップ限定のアイテムがあるという。それは、映画『かもめ食堂』で小林聡美さん演じるサチエが、おにぎりをそれは美味しそうに乗せていた、あのARABIAの24h Avecプレート。そのブルーのプレートの色違いである、鮮やかなイエローバージョンだ。画面越しにも伝わってきたあの温かい食卓の風景が蘇り、思わず手に取ってしまった。実に美しい色合いだ。

そして、いよいよ本命のイッタラエリアへ。棚の端から端まで、個性豊かで洗練されたガラス製品が、静謐な輝きを放っている。「もう、ここにあるもの全部いただけますか?」と、思わず口走りそうになるほどだ。特に目を引いたのは、「ウルティマツーレ」シリーズの展示。イッタラの伝説的デザイナー、タピオ・ヴィルカラの生誕110周年を記念した展示会に合わせて登場。限定カラーの酒グラスが美しい。フィンランドの土とガラスが化学反応して生まれたという特別な色合いは、深みがあり、吸い込まれそうだ。

イッタラは、リサイクルガラスの活用にも積極的で、ウルティマツーレのグラスにもリサイクルガラスを採用したモデルがある。スタッフの方が「一つひとつ個体差があって面白いんですよ」と教えてくれ、並べて見せてくれた。確かに、同じデザインでありながら、色味や気泡の入り方が微妙に異なり、一つとして同じものはない。手仕事の温もりと、サステナブルな思想が息づいている。この「自分だけのひとつ」を選び出すという行為もまた、愛着を深める大切なプロセスなのだと実感した。
この旗艦店だからこそ出会えるのが、やはり大きな商品。フラワーベースやオブジェのような造形ガラスは、息をのむほど美しい。特に、木の型から形を取って作られたという限定品のフラワーベースは、自然の力強さと繊細な職人技が見事に調和し、空間に特別な存在感を放っていた。「いつかはこんな逸品を迎え入れたい」。フィンランドから持ち帰ることを考えれば、ここで出会えたこと自体が奇跡かもしれない。

突然の宣告:終わりゆく北欧の夢
まさに夢見心地で店内を巡っていたその時、スタッフの方から衝撃の事実が告げられた。「実は…このIITTALA&MOOMIN ARABIA表参道店は、2025年7月27日をもって閉店することになったんです」。
え…?聞き間違いだろうか。こんなにも素敵な商品が溢れ、訪れる人々を魅了し続けてきたこの場所が、なくなるというのか?これだけのラインナップを実際に手に取って見られる場所は、他にはそうそうない。「このお店がなくなったら、どこへ行けば…?」思わず尋ねると、「これだけの規模でご覧いただける場所は、国内ではなくなってしまいますね…」と、申し訳なさそうな表情でスタッフの方は答えた。ガガーン…頭を殴られたような衝撃。ということは、今後はフィンランドに直接足を運ぶか、限られた品揃えの店舗やオンラインで求めるしかなくなるということか。
閉店はあまりにも残念だが、同時に「今日、ここに来て本当に良かった」という思いがこみ上げてきた。そして、閉店に伴い、イッタラ製品を税込み13,200円以上購入するとオリジナルのガラス製コースターが、ムーミンアラビア製品を税込み5,500円以上(スタッフさん曰く、とのこと)購入するとムーミンのマルシェバッグがもらえるキャンペーンを実施しているという。これはもう、出会えた記念に、そしてこの場所への感謝を込めて、何かを連れて帰るしかない。
最後の輝きを我が家へ:選び抜いた宝物たち
閉店の報せに動揺しつつも、この貴重な機会を逃すまいと、改めてじっくりと商品を選び始めた。スタッフの方は、こちらの気持ちを察してか、とても親切に相談に乗ってくれる。「個体差があるので、ゆっくり選んでくださいね」その優しい言葉に、少しだけ心が落ち着いた。
そして、選び抜いたのがこれらの品々だ。

イッタラからは、環境に配慮したリサイクルガラス製のキャンドルグラスと、タピオ・ヴィルカラ生誕110周年記念のウルティマツーレ限定酒グラス2個セット。そして、同じくウルティマツーレのリサイクルガラス製グラス。手前の2つのガラスコースターは、閉店記念のノベルティだ。アラビアからは、表参道店・オンラインショップ限定の黄色い24h Avecプレート。そして、ムーミンアラビアの日本限定食器と、クリスマスツリーのオーナメントにもなるというミニマグ。もちろん、一目惚れしたNordicbuddiesの怒ったムーミンキャップも忘れてはいない。



これらの品々は、単なる「モノ」ではなく、この日の高揚感、閉店を知った時の切なさ、そしてフィンランドデザインへの尽きぬ憧れを記憶する「体験の証」として、私の日常を彩ってくれるだろう。
今、この瞬間を逃さないで:表参道、最後の北欧物語
IITTALA&MOOMIN ARABIA表参道店の閉店は、2025年7月27日。残された時間は、そう多くない。デパートでは出会えないフルラインナップのイッタラ、アラビア、そしてムーミンアラビアの製品を、実際に手に取り、その質感や色彩、デザインの細部まで吟味できるのは、本当にこれが最後のチャンスかもしれない。
特に、フラワーベースのような大きな作品や、ウルティマツーレの限定品、リサイクルガラスのアイテムのように個体差を楽しめるものは、実際に見て選ぶ価値が大きい。これらは、フィンランドから持ち帰るとなると、なかなかの労力とコストを要するだろう。日本限定品や表参道店限定品、数量限定品も多数あるので、気になる方はぜひスタッフの方に声をかけて、お気に入りの一品との出会いを楽しんでほしい。
スタッフの方々の温かく丁寧な接客も、この店の大きな魅力だ。商品知識はもちろん、ブランドへの愛情が伝わってくる。閉店は寂しいけれど、最後にこの場所で、こんなにも素敵な体験ができたことに感謝したい。
表参道で紡がれてきた、イッタラとムーミンアラビアの物語。その最終章が幕を閉じる前に、あなたもぜひ、その最後の輝きに触れてみてはいかがだろうか。きっと、忘れられない出会いが待っているはずだ。
公式サイト:
イッタラ: https://www.iittala.jp/
ムーミンショップ(アラビア取り扱い): https://shop.moomin.co.jp/collections/arabia-1
Google Map:IITTALA&MOOMIN ARABIA表参道店(イッタラ表参道ストア&カフェ)