ヘルシンキのレコードショップおすすめ探訪記|Levykauppa Äxで出会いと後悔

ヘルシンキのレコードショップで、音楽の旅は続く

夏の光が優しく降り注ぐヘルシンキ。石畳の通りを歩けば、デザインと自然が溶け合うこの街の空気が、肌を心地よく撫でていく。先日訪れたヘルシンキセカンドハンドOYで、レニー・クラヴィッツのレアなヨーロッパ盤とスター・ウォーズのコレクターズレコードという、予期せぬ宝物を手に入れた僕の心は、すっかり「探求モード」に切り替わっていた。デジタルマーケティングの世界で日々ロジックとデータを追いかける僕にとって、旅先でのこうした偶発的な出会いは、脳の普段使わない領域を刺激する、得がたい体験だ。

次なる目的地は、もう決まっていた。アナログな温もりと、未知のサウンドが眠る場所——レコードショップだ。ヘルシンキ中央図書館(Oodi)への訪問も計画していたため、その近辺に位置する2つの店に狙いを定めた。「Levykauppa Äx」と、その系列店である「Levykauppa Keltainen Jäänsärkijä」。Googleマップ上で見た、ただならぬ雰囲気を放つその店構えは、僕の好奇心を強く惹きつけていた。果たして、そこにはどんな物語が待っているのだろうか。期待と少しの緊張を胸に、僕は再びヘルシンキの街へと足を踏み出した。

最初のおすすめヘルシンキ レコードショップ:Levykauppa Äxのクールな洗礼

まず向かったのは、Levykauppa Äx。レンガ造りの建物の角に、その店はあった。緑と白のストライプの日よけ、そして黄色く光るレトロなネオンサイン。まるでインディペンデント映画のワンシーンを切り取ったかのような、完璧な佇まいだ。事前のリサーチでその外観は知っていたが、実際に目の前にすると、その独特のオーラに息を呑む。

晴れた日、レンガ造りの建物の前にあるレコード店「Levykauppa Äx」の店先。緑と白のストライプの日よけの下に大きな窓があり、黄色いネオンサインが店名を示している。
ヘルシンキの街角で見つけたレコード店「Levykauppa Äx」

放射能マーク?Levykauppa Äxの謎めいたドアと店内の第一印象

店のガラスドアには、黄色と黒のステッカーが貼られている。一見すると放射能標識のようにも見える、インパクトのあるロゴだ。これは換気扇を模したものだろうか。いずれにせよ、「ここには何か強烈なものがある」と、そのデザインは雄弁に語りかけてくる。これから浴びるであろう音楽のシャワーの強さを予告しているようで、期待に胸が膨らんだ。

レンガ造りの建物の入り口にあるレコード店「Levykauppa Äx」のガラスドア。ドアには放射能標識を模した黄色と黒のロゴステッカーが貼られている。
フィンランドのレコード店「Levykauppa Äx」のクールなエントランス

重厚なドアを開けて中へ一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気と共に、古紙とインクの匂いが鼻をくすぐる。入ってすぐ左手には新品CDのコーナーが、そして中央と向かいには中古CDの棚がずらりと並んでいた。整然と、しかし圧倒的な物量で迫ってくるCDの群れ。デジタルデータでは決して味わえない、物理的な存在感。これこそが、僕が求めていた光景だ。

Daft Punkとの遭遇と、最初の後悔

中古CDの棚を丹念に見ていく。指先でジャケットを一枚一枚めくっていく作業は、まるで地層を掘り進む考古学者のようだ。そして、その中に見慣れたロゴを見つけた。Daft Punkの「Da Funk」のシングルCD。黒いジャケットに貼られた、鮮やかなオレンジ色のステッカー。90年代の空気をそのままパッケージしたようなその一枚は、強烈なノスタルジーを喚起する。

レコード店の棚に置かれたダフト・パンクのシングルCD「DA FUNK」。黒いジャケットにオレンジ色のステッカーが貼られている。
レコード店で見つけた宝物。ダフト・パンクの名曲「DA FUNK」。

手に取って、数秒間逡巡する。「まだレコードショップは回るから、一旦保留にしよう」。そう考えたのが、この日の最初の過ちだった。旅先での出会いは一期一会。この時の僕は、その普遍的な真理を軽視していたのだ。このシングルCDが、後々大きな後悔の種になることを、まだ知る由もなかった。

フィンランドのインディーシーンを垣間見るカセットテープ棚

中古CD棚の上に目をやると、そこには壁一面のカセットテープが並んでいた。「KASETIT」と書かれたラベルが、ここがカセットテープのセクションであることを示している。おそらく、その多くはフィンランドのインディーズアーティストたちの作品だろう。デジタルストリーミングが主流の現代において、カセットテープというメディアがこれほどまでに大切に扱われている光景は、胸を熱くさせる。

木製の棚にびっしりと並べられた、フィンランドのアーティストのものと思われるカセットテープのコレクション。
フィンランドのレコードショップにて。棚一面に並んだカセットテープは圧巻。

一つ一つ手に取って、知らないアーティスト名と独創的なアートワークを眺める時間は、宝探しそのものだ。ここでもまた、「何か一つ、記念に買っておけばよかった」という後悔が、後から波のように押し寄せてくることになる。体験を記録し、感覚を伝えることを信条とするPhotomoの人間として、あまりに軽率な判断だったと、今では思う。

新品レコードコーナーとK-POPの熱気

レコードのセクションは、中古も扱ってはいたが、新品の方が充実している印象だった。そして、驚いたことにK-POPのコーナーが設けられており、僕が店にいる間にやってきた地元の小中学生くらいの子供たちは、真っ先にその棚へと向かっていった。遠く離れた北欧の地で、アジアのポップミュージックがリアルタイムで消費されている。グローバル化の波を肌で感じる瞬間だった。

もちろん、ロックの品揃えも素晴らしい。我らがOasisのベスト盤「Time Flies… 1994-2009」や、4thアルバム「Standing on the Shoulder of Giants」のヴァイナル盤も鎮座していた。壮大なライブ写真のジャケットや、夕暮れのニューヨークを捉えた象徴的なカバーアートは、いつ見ても色褪せない。

レコード店の木製の棚に、オアシス、モーターヘッド、マイルス・デイヴィスのレコードが並んでいる。中央にはオアシスの「Time Flies... 1994-2009」が正面を向いて置かれている。
レコード店でオアシスの「Time Flies」を発見!

残念ながらどちらも既に所有していたため、今回は見送ることに。しかし、ヘルシンキのレコードショップで彼らの作品に出会えたという事実だけで、少し満たされた気持ちになった。

レコード店の棚に陳列されているオアシスのアルバム『スタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』のヴァイナル盤。ジャケットには夕暮れのニューヨークの街並みが写っている。
レコード屋さんでオアシスの『スタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』を発見!

もう一つのおすすめヘルシンキ レコードショップ:Levykauppa Keltainen Jäänsärkijäへ

Levykauppa Äxでの出会いと、微かな後悔の念を胸に、僕は系列店へと向かった。歩いてすぐの距離にある「Levykauppa Keltainen Jäänsärkijä」。フィンランド語で「黄色い砕氷船」を意味する、なんともユニークな名前の店だ。

フィンランドのヘルシンキにあるレコード店「Levykauppa Keltainen Jäänsärkijä」のレンガ造りの外観。ショーウィンドウにはレコードやポスターが飾られている。
ヘルシンキのレコード店「Levykauppa Keltainen Jäänsärkijä」

オープンなドアと店内に満ちる音楽への愛

この店もまた、実に味わい深い外観をしている。赤レンガの壁に、店名を示す黄色い文字がよく映える。訪れた日は7月の晴れた日で、夏の陽気からか、店のドアは大きく開け放たれていた。ステッカーで埋め尽くされたドアは、まるで音楽好きを温かく迎え入れるためのゲートのようだ。そのオープンな雰囲気に誘われるように、僕は店内へと足を踏み入れた。

晴れた日に撮影されたレンガ造りのレコード店「Levykauppa Keltainen Jäänsärkijä」の外観。店のドアが開いており、歩道に影が落ちている。
Levykauppa Keltainen Jäänsärkijäのドアは夏だからか開けっ放しでした。

中に入ると、すぐ目の前がレジカウンター。その前には新着の中古盤が並べられていたが、残念ながら僕の琴線に触れるものはなかった。店内はÄxよりも少しコンパクトだが、その分、密度が濃い。左手には中古CDの棚が果てしなく続き、右手には中古と新品のレコードがぎっしりと詰まっている。壁にはThe Beatlesをはじめとするバンドのポスターが飾られ、空間の隅々まで音楽への深い愛情が満ち溢れていた。

レコード店の店内で、黒い陳列棚にびっしりと並べられた大量のCD。壁にはポスターが飾られ、窓からは外の光が差し込んでいる。
入ってすぐ左手には、あらゆるジャンルのCDがずらり。

フィンランドとメタルの関係、そして再びのDaft Punk

店の奥へと進むと、そこはメタルやハードコア系のジャンルが特に充実した空間だった。AC/DCやIron Maidenといったレジェンドたちのポスターが壁を飾り、棚にはおびただしい数のレコードがひしめき合っている。静謐な森と湖の国というパブリックイメージとは裏腹に、フィンランドが世界有数のメタル大国であることはよく知られている。この国の持つ静と動の二面性、その「動」の部分が、この一角に凝縮されているかのようだった。

レコードで埋め尽くされたレコード店の店内。通路の両側にはレコードが入った箱がずらりと並び、壁にはバンドのポスターが貼られている。
宝探しのようなレコード店の店内。もちろん、レコードもたくさんあります!
ヘヴィメタルやハードロックのポスターが壁一面に貼られたレコード店の店内。棚にはたくさんのレコードが並んでいる。
メタルやハードロック系が充実していました。

そして、僕はまたしても彼らに出会ってしまった。新品CDのコーナーで、シュリンク包装されたままのDaft PunkのCDを見つけたのだ。リミックスアルバム「Daft Club」。€9.90という値札がついている。これはレアなコンピレーションアルバムだと知っていたし、所有もしていなかった。絶好の機会だ。しかし、僕の心の中で悪魔が囁く。「もっと掘れば、もっと良いものが見つかるかもしれない」。僕はその囁きに従い、またしてもそのCDを棚に戻してしまった。この日の二度目の、そして最大の過ちだった。

レコード店で、ダフト・パンクのCDアルバム「Daft Club」を手に持っている様子。背景には赤いCDケースが陳列されている。
レコード店の新品コーナーで、ダフト・パンクのCDを発見。

Digelius Music Helsinkiなど、他のレコードショップもチェック

今回の旅では時間の都合で訪れることができなかったが、ヘルシンキには他にも魅力的なレコードショップが存在する。例えば「Digelius Music Helsinki」は、ジャズやワールドミュージックの品揃えに定評があることで知られている。より専門的なジャンルを探求したい音楽ファンにとっては、必見の場所だろう。他にも、市内には小規模ながらも個性的な店が点在しているという。次回のヘルシンキ訪問では、これらの店を巡るための時間を十分に確保しようと、固く心に誓った。読者の皆さんも、ヘルシンキを訪れる際は、ぜひ複数の店舗をリストアップしておくことをおすすめする。

総括:ヘルシンキのレコードショップおすすめ探訪で学んだこと

結局、この日、僕がLevykauppaの2店舗で購入したものは何もなかった。手ぶらで店を出た時の、あの何とも言えない空虚な感覚を、僕は忘れることができないだろう。しかし、失ったのは数枚のCDやカセットテープを手に入れる機会だけだ。一方で、得たものも確かにある。それは、ヘルシンキの街角に深く根付いた、音楽を愛する人々の確かな熱量。そして何より、「中古商品は一期一会。迷ったら買うべき」という、デジタルマーケティングの世界では決して学べない、シンプルで普遍的な教訓だ。

後悔は、次の旅への最高のモチベーションになる。次にこの街を訪れる時は、もっと大胆に、もっと直感を信じてレコードを掘ろう。あのDaft Punkのシングルやアルバムに再び出会える保証はない。しかし、だからこそ、旅は面白い。この苦い経験は、僕の次の「歩いて、撮って、書く」旅を、きっとより豊かなものにしてくれるはずだ。

公式サイト: http://www.levykauppax.fi/

Levykauppa Äx

Levykauppa Keltainen Jäänsärkijä

コメントする