前回の記事で、蔵前の「喫茶 半月」におけるケーキとコーヒー、紅茶と、計算し尽くされた空間美について触れました。しかし、あの体験には続きがあります。
カフェの扉を開けて現実世界(といっても、蔵前の街並みは十分に情緒的ですが)に戻った直後、私の足は自然と隣の扉へと向かっていました。そこにあるのは、喫茶室で提供される極上のコーヒーのルーツ、半月焙煎研究所です。
CityNomixとして、単に「美味しかった」で終わらせるわけにはいきません。あの深みのある味わいを自宅のデスクでも再現し、日常をアップデートすることこそが、今回のミッションです。
1. 研究所という名の美学:足を踏み入れた瞬間の世界観
「第二精華ビル」の1階。レトロなレンガタイルの建物に、重厚な黒い塗装が施されたファサードが現れます。喫茶室と同様、ここもまた一瞬で日本であることを忘れさせるような、ヨーロッパの古い街角のような佇まいです。

入り口の足元には幾何学模様のモザイクタイルが敷き詰められ、その上に静かに鎮座するのが真鍮製のスタンド看板です。「半月焙煎研究所」と刻印されたその金属の質感は、経年変化によって鈍く、しかし力強く輝いています。

「研究所」というネーミングに、少し身構える方もいるかもしれません。しかし、一歩足を踏み入れると、そこはコーヒー好きにとっての秘密基地のような、心地よい緊張感と静寂に包まれています。
黒と真鍮、そして知性が宿るディスプレイ
店内は黒を基調としたシックな空間。壁一面の棚には、実験器具のように並べられたコーヒー豆のサンプルや、銅製のケトル、マキネッタが整然とディスプレイされています。

個人的にグッときたのは、その棚にさりげなく置かれたウィリアム・モリスの画集です。単にコーヒーを売る場所ではなく、芸術やデザインへの敬意、そして「美意識」というフィルターを通したコーヒー作りが行われていることが、言葉を介さずとも伝わってきます。

そして、訪れた多くの人がカメラを向けるのが、壁面の「hangetsu roastery」の筆記体ロゴと、真鍮製の蛇口型オブジェです。「COFFEE」と刻まれたその蛇口からは、まるで無限にクリエイティビティが湧き出てくるかのよう。ここは間違いなく、蔵前でもっともフォトジェニックな壁の一つでしょう。
2. あの味を求めて:バリスタとの対話と豆選び
さて、今回の目的は「喫茶 半月の味を自宅に持ち帰る」ことです。美しい内装に見惚れている場合ではありません。私はカウンターに立ち、スタッフの方に単刀直入に尋ねました。
「先ほど隣の喫茶室でいただいたドリップコーヒーが素晴らしかったのですが、どの豆を使われていますか?」
スタッフの方は穏やかな口調で教えてくれました。
「喫茶室のドリップコーヒーは、主にブラジルとコロンビアの深煎りを使用しています」
なるほど、やはり深煎りでしたか。最近のスペシャルティコーヒーブームでは酸味の際立つ浅煎りが持て囃されがちですが、半月のコーヒーには、どっしりとした重心の低さと、それでいて重すぎないエレガントな余韻がありました。あのお菓子(特にチーズケーキや濃厚なクリーム)を受け止めるには、この強さが必要なのです。

私は迷わず、その「ブラジル」と「コロンビア」の深煎りをオーダー。さらに、メニューを見て気になった「キャラメルフレーバー」の豆も追加しました。自宅での作業中、甘い香りで脳をリラックスさせたい時に最適だと思ったからです。
テイクアウトコーヒーという選択肢
ちなみに、ここでは豆の購入だけでなく、テイクアウトのドリンクもオーダー可能です。

- ドリップコーヒー:480円〜
- カフェラテ:550円〜
レジカウンターには「CASH ONLY」のトレイ。このアナログな潔さもまた、この店のスタイルの一部のように感じられます。豆を挽いてもらっている間、カウンター越しに奥に見える焙煎機を眺めるのも、コーヒー好きにはたまらない時間です。
3. 実践:自宅で再現する「蔵前」の時間
白い紙袋に包まれた豆を受け取り、店を後にしました。「hangetsu roastery」のロゴが入ったその袋は、シンプルながらも洗練されており、手土産としても間違いなく喜ばれるデザインです。

帰宅後、さっそく淹れてみることにしました。
ブラジル&コロンビア 深煎りの実力
パッケージを開封した瞬間に広がる、香ばしく力強いアロマ。お湯を注ぐと、新鮮な豆の証であるドーム状の膨らみがしっかりと現れます。
一口飲むと、記憶通りの味が蘇りました。
「苦い」のではなく、「深い」。
舌の上で転がすとカカオのようなコクが感じられますが、喉越しは驚くほどクリアです。これが「Clean Cup(雑味のないきれいな味)」ということでしょう。深煎り特有の焦げ臭さやイガイガした感じは一切ありません。
キャラメルフレーバーの誘惑
一方のキャラメルフレーバーは、抽出中から部屋全体が甘い香りに包まれます。実際に砂糖が入っているわけではないので味はブラックコーヒーそのものですが、鼻に抜ける香りが甘美で、午後の休憩時間にこれ以上の贅沢はありません。
4. 究極のペアリング:菓子屋シノノメの焼き菓子と共に
しかし、このコーヒー体験を完結させるには、まだピースが一つ足りません。そう、「最高のお菓子」です。
実は、この半月焙煎研究所のすぐ近くには、同じ系列の焼き菓子店「菓子屋 シノノメ」があります。今回の蔵前散策では、もちろんそこにも立ち寄ってきました。
半月の深煎りコーヒーは、単体でも美味しいですが、バターをふんだんに使った焼き菓子と合わせた時にこそ、その真価を発揮します。コーヒーのビターな油分が、お菓子の甘みと口の中で混ざり合い、第三の味わいを生み出すのです。
次回は、この「半月焙煎研究所」のコーヒーに合わせるために購入した、「菓子屋 シノノメ」の焼き菓子たちをご紹介します。アンティーク家具に囲まれたあのお店の雰囲気もまた、必見です。
5. CityNomixのまとめ:なぜわざわざ豆を買いに行くのか
ネットで何でも買える時代に、わざわざ蔵前まで足を運び、現金で支払い、豆を買って帰る。その一連のプロセス自体が、豊かな体験なのだと改めて感じました。

半月焙煎研究所のおすすめポイント:
- 確かな品質:「喫茶 半月」の味を支える、妥協のない焙煎技術。
- 深煎り好きの聖地:酸味トレンドに流されない、硬派でリッチな味わい。
- デザイン:パッケージから内装まで、視覚的にも満たされる世界観。
もしあなたが蔵前を訪れるなら、カフェで一休みするだけでなく、ぜひその「味の秘密」をテイクアウトしてみてください。あなたの日常のコーヒータイムが、少しだけ特別なものになるはずです。
公式サイト:https://instagram.com/hangetsuroastery/
Google Map:
半月珈琲焙煎所(Hangetsu Roastery)
「半月珈琲焙煎所」は、蔵前の人気店「喫茶 半月」のコーヒーを一手に担う焙煎所です。研究所という名の通り、豆のポテンシャルを最大限に引き出すための探求が日々行われています。
喫茶 半月

焙煎所の隣にある「喫茶 半月」は、クラシックな内装と絶品のスイーツで知られるカフェ。まずはここで味を確かめてから、隣で豆を購入するのがCityNomix流のゴールデンルートです。
蔵前 半月 メニュー
メニューはシンプルかつ精鋭。ドリップコーヒーはもちろん、ラテやエスプレッソトニックなど、季節に合わせたアレンジも。豆の販売は150gからで、好みに合わせて挽いてもらえます。
蔵前 焙 煎 所
蔵前エリアは「東京のブルックリン」とも呼ばれ、多くの焙煎所が点在していますが、中でも半月焙煎研究所は、その世界観の完成度において頭一つ抜けています。
蔵前 半月 テイクアウト
散策のお供に、テイクアウトカップでコーヒーを楽しむのもおすすめ。スタイリッシュなカップを持って隅田川沿いを歩けば、気分はすっかりローカルです。
シノノメ 半月
「菓子屋シノノメ」と「喫茶 半月/半月焙煎研究所」は系列店であり、互いの良さを引き立て合う関係にあります。シノノメのお菓子には半月のコーヒー、これが蔵前の鉄則です。



