V&A博物館から歩いて向かう、音楽の聖地ロイヤル・アルバート・ホール
ロンドンの知性が集う街、サウス・ケンジントン。ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)でデザインの海に浸った後、私はある特別な場所を目指して歩き始めました。目的地は、V&Aからほんの目と鼻の先にある、赤レンガの荘厳な殿堂、ロイヤル・アルバート・ホールです。
単なる観光スポットとしてではありません。私にとって、この場所は聖地巡礼にも似た意味を持っていました。なぜなら、ここは私の敬愛するバンド、Oasis、そして特にノエル・ギャラガーが数々の伝説的なパフォーマンスを繰り広げた場所だからです。
中でも私の心を捉えて離さないのが、2007年に行われたアコースティックライブ『The Dreams We Have as Children』。その音源を聴くたび、この円形のホールに響き渡ったであろうギターの音色とオーディエンスの熱狂に想いを馳せていました。いつか、この場所の空気を肌で感じてみたい。その一心で、期待に胸を膨らませながら歩を進めます。

V&A博物館からロイヤル・アルバート・ホールまでは、徒歩10分もかからない快適な散歩道です。ロンドンらしい重厚な赤レンガの建物が連なる景色は、まるで一枚の絵葉書のよう。この街並みを歩くだけで、これから始まる体験への序章として、気分が高揚していくのが分かりました。
そして、カーブを曲がった先に、その特徴的な円形のシルエットが見えてきました。夕暮れの光を浴びて佇むその姿は、想像を遥かに超える存在感を放っています。

予期せぬ厳戒態勢、ロイヤル・アルバート・ホールへの道は遠く
しかし、ホールに近づくにつれて、私は異様な雰囲気に気づき始めました。建物の周囲にはバリケードが張り巡らされ、制服姿の警察官が何人も警備にあたっているのです。観光客の姿はまばらで、代わりに警察車両が物々しく停車しています。

「何か特別なイベントがあるのだろうか?それとも、どこかの国の要人でも訪れているのか?」
淡い期待を抱きながらエントランスに近づこうと試みますが、その試みはすぐに打ち砕かれました。警察官が厳しい視線を向けており、明らかに一般人は立ち入り禁止の空気です。これでは、中に入るどころか、建物の近くに寄ることすら叶いそうにありません。

ノエルが立ったステージ、リアムが歌った空間。その歴史が刻まれた壁に触れ、内部の荘厳な雰囲気を味わうことを楽しみにしていただけに、落胆は大きいものでした。旅にはこうした予期せぬ出来事がつきものだと頭では理解していても、残念な気持ちは隠せません。まるで、憧れのライブ会場に着いたのに「本日の公演は中止です」と告げられたかのような、そんな心境でした。

Royal Albert Hallとは? 〜イギリス文化の象徴〜
ここで少し、ロイヤル・アルバート・ホールの歴史に触れておきましょう。このホールは、ヴィクトリア女王が1871年に、若くして亡くなった夫アルバート公を偲んで建設させたものです。以来、クラシック音楽のコンサート「プロムス」のメイン会場として知られるだけでなく、ロック、ポップス、バレエ、オペラ、さらにはボクシングや相撲といったスポーツイベントまで、ありとあらゆるカルチャーの舞台となってきました。
まさに、イギリスの文化そのものを体現するような、歴史と格式を兼ね備えた場所なのです。エリック・クラプトンはここで200回以上の公演を行い、ビートルズやピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンといった伝説的なアーティストたちも、このステージにその名を刻んでいます。
兄弟の歴史から読み解く、Royal Albert Hallの特別な意味
そんな歴史あるホールは、ギャラガー兄弟にとっても特別な場所でした。Oasisとしての出演は意外にも少ないのですが、解散後の二人の活動において、このホールは象徴的な役割を果たしてきました。
実はOasis本体の出演は1回だけという事実
驚くべきことに、Oasisがバンドとしてロイヤル・アルバート・ホールのステージに立ったのは、歴史上たった一度きりです。それは2000年2月4日、チャリティー団体「ティーンエイジ・キャンサー・トラスト(TCT)」のためのコンサートでした。この夜は、ザ・フーやポール・ウェラーといった大御所と共演し、彼らがブリティッシュ・ロックの正統な後継者であることを満天下に示した、歴史的な一夜となりました。
Noelが作った“アコースティック伝説”:2000–2010年代の名公演
Oasis解散後、ロイヤル・アルバート・ホールを自身の表現の場として昇華させたのは、兄のノエルでした。彼はTCTのコンサートに精力的に参加し続け、特にアコースティックセットでのパフォーマンスは多くのファンの間で伝説となっています。
2007年3月27日の公演は、その最たる例です。『The Dreams We Have as Children (Live at the Royal Albert Hall)』として音源化もされたこのライブは、ノエルのソングライターとしての才能が遺憾なく発揮された名演。Oasisのアンセムが、たった一本のアコースティックギターとノエルの歌声だけで、全く新しい感動を伴って生まれ変わる。私が今日、この場所で感じたかったのは、まさにその響きの片鱗でした。
Liamが継承し更新した2020年のTCT公演
一方、弟のリアム・ギャラガーもまた、この聖なる舞台に帰ってきました。2020年、彼もTCTのコンサートに出演。Oasis時代の名曲とソロの楽曲を織り交ぜたセットリストで、満員の観客を熱狂の渦に巻き込みました。兄が築いたアコースティックの伝説とは対照的に、リアムは圧倒的なロックンロール・スターとしての存在感を見せつけ、ロイヤル・アルバート・ホールの歴史に新たな1ページを刻んだのです。
このように、一つのバンドから生まれた二人の兄弟が、それぞれのやり方でこの歴史的なホールと向き合い、新たな伝説を創り続けている。その物語を知る者にとって、ここは単なるコンサート会場以上の意味を持つ場所なのです。
憧れの舞台、ロイヤル・アルバート・ホールを訪れるための完全ガイド
今回は残念ながら中には入れませんでしたが、これから訪れる読者の皆さんのために、事前にリサーチした実践的な情報もまとめておきます。次こそは、この情報を手にリベンジを果たしたいものです。
ロイヤルアルバートホール チケットの入手方法
ロイヤル・アルバート・ホールの公演チケットは、主に公式サイトから購入するのが最も確実です。人気の公演はすぐに売り切れてしまうため、スケジュールをこまめにチェックし、発売日に合わせて準備しておくことをお勧めします。また、公式リセールサイトも存在するため、売り切れた場合でも諦めずに確認する価値はあります。ロンドン市内のチケットオフィスでも購入可能ですが、オンラインが最も手軽でしょう。
ロイヤルアルバート ホール アクセス完全ガイド
アクセスは非常に便利です。最寄り駅は、ロンドン地下鉄(Tube)のサウス・ケンジントン駅(ピカデリー線、ディストリクト線、サークル線)またはナイツブリッジ駅(ピカデリー線)です。どちらの駅からも徒歩で10〜15分ほど。V&A博物館や自然史博物館、科学博物館といった主要な文化施設が集まるエリアなので、散策を楽しみながら向かうのがおすすめです。
ロイヤル アルバート ホール 収容 人数と会場の雰囲気
ロイヤル・アルバート・ホールの収容人数は、最大で約5,272人です。円形の独特な構造をしており、どの席からもステージが見やすいように設計されています。特に、上層階のバルコニー席や、スタンディングエリアである「アリーナ」からの眺めは格別だと言われています。歴史が刻まれた赤いビロードの座席と金色の装飾が、特別な夜を演出してくれます。
ロイヤルアルバートホール 座席 表で見るベストな席は?
座席選びは公演の種類によって異なります。公式サイトで詳細な座席表が確認できるので、予約前に必ずチェックしましょう。クラシックコンサートであれば音響の良いとされる中央の「ストールズ(Stalls)」席が人気です。一方、ロックコンサートであれば、ステージとの一体感を味わえる「アリーナ(Arena)」のスタンディングか、ステージ全体を見渡せる「サークル(Circle)」席がおすすめです。
ロイヤルアルバートホールとビートルズの意外な関係
ビートルズファンにとっても、ここは見逃せない場所です。名曲『A Day in the Life』の歌詞に「Now they know how many holes it takes to fill the Albert Hall(アルバート・ホールを埋めるのにどれだけの穴が必要か、今や彼らは知っている)」という一節が登場します。この歌詞が物議を醸し、BBCで放送禁止になったという逸話も残っています。ビートルズ自身がここで公演することは叶いませんでしたが、その音楽の中に永遠に刻まれているのです。
最新のロイヤル アルバート ホール スケジュールを確認する方法
公演スケジュールは、公式サイトで常に最新情報が公開されています。クラシックからロック、映画音楽のコンサート、サーカスまで、非常に多岐にわたるプログラムが組まれています。旅行の計画を立てる際には、まず公式サイトの「What’s On」セクションをチェックして、滞在期間中に興味のあるイベントが開催されていないか確認することをお勧めします。
ロイヤル アルバート ホール 場所と周辺の見どころ
場所はケンジントン・ガーデンズの南端に位置しています。ホールのすぐ向かいには、ヴィクトリア女王が夫アルバート公のために建てた壮大なアルバート記念碑があります。黄金に輝くその姿は圧巻です。

また、先述の通り、V&A博物館、自然史博物館、科学博物館といった世界トップクラスのミュージアム群が徒歩圏内にあります。一日かけて、このエリアのアートとカルチャーにどっぷりと浸るのも最高の過ごし方でしょう。
意外な歴史?ロイヤルアルバートホールと相撲
実はこの由緒あるホールで、日本の国技である相撲の公演が開催されたことがあります。1991年に、ロンドンで初めて大相撲の巡業が行われた際の会場が、ここロイヤル・アルバート・ホールでした。イギリスの文化の殿堂で日本の力士たちが土俵入りする光景は、当時大きな話題となりました。文化の交差点としてのこのホールの懐の深さを感じさせるエピソードです。
気持ちを切り替えて、次の目的地ノッティング・ヒルへ
さて、ロイヤル・アルバート・ホールには入れず、少しばかり肩を落とした私ですが、旅はまだ続きます。ここで落ち込んでいても仕方がない。気持ちを切り替えて、次の目的地へと向かうことにしました。目指すは、カラフルな街並みと活気あるマーケットで知られるノッティング・ヒル。そこには、お目当ての中古レコード&CDショップ「Music & Video Exchange」があるのです。
ケンジントン・ガーデンズを突っ切れば徒歩でも行けますが、体力は温存したいところ。地図アプリで調べると、バスを使えば10分ほどで着くようです。

ケンジントン・ロード沿いのバス停で70番のバスを待つことにしました。しかし、ロンドンのバスは気まぐれです。待てど暮らせど、お目当てのバスはやってきません。こういう時は、一つの方法に固執しないのが得策。再度アプリで検索すると、少し歩いた別のバス停からなら、他の系統のバスでもノッティング・ヒルへ行けることが分かりました。

旅先での小さなトラブルシューティングは、時に面倒ですが、それもまたリアルな体験。柔軟に対応することで、新たな発見があるかもしれません。さて、気を取り直してバスに乗り込み、車窓からの景色を楽しみながらノッティング・ヒルへと向かいます。
この時の私は、まだ知る由もありませんでした。この後訪れるノッティング・ヒルで、今日見ることが叶わなかったロイヤル・アルバート・ホールでの、あの伝説のライブに関する、非常にレアなアイテムと思わぬ形で再会することになるということを。
まとめ:予期せぬ出来事も旅の醍醐味。伝説の舞台、ロイヤル・アルバート・ホールに想いを馳せて
今回のロイヤル・アルバート・ホール訪問は、残念ながら厳戒態勢のため内部を見学することはできませんでした。しかし、その荘厳な外観を前に、Oasisからギャラガー兄弟へと受け継がれる音楽の物語に想いを馳せる時間は、何物にも代えがたい体験となりました。計画通りに進まないことこそ、旅のリアリティであり、記憶に深く刻まれるスパイスなのかもしれません。
この記事を読んでくださったあなたがロンドンを訪れる際には、ぜひこの音楽の殿堂に足を運び、その歴史と響きを体感してみてください。そして、もし幸運にも中に入ることができたなら、私の代わりに、ノエルが奏でたアコースティックの残響を聴き届けてくれると嬉しいです。
Official site: https://www.royalalberthall.com/
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