【V&A Museum】圧巻のトラヤヌスの柱とは?ロンドンの巨大迷宮で時を超えるアート体験

予定不調和が生んだ、V&A Museumとの邂逅

ロンドンの街は、時に旅人の計画を優しく裏切る。当初の目的は、新設されたV&A Eastで開催されるデヴィッド・ボウイの特別展だった。しかし、デジタルマーケターの性分で公式サイトをくまなくチェックするも、事前予約のチケットはキャンセル待ちすら叶わない状況。計画の変更は、旅の常だ。

 

そこで僕は、隣接するロンドン自然史博物館での恐竜とシロナガスクジラとの対話を終えた足で、ヴィクトリア&アルバート博物館、通称V&A Museumの本館へと舵を切った。二つの偉大な博物館は地下道で結ばれており、雨の多いロンドンでは実にクレバーな設計だ。自然史博物館側から地下鉄駅とは逆方向へ進むと、V&Aの控えめな地下エントランスが姿を現した。

 

メタリックな質感の壁に黒い文字で「V&A Victoria and Albert Museum The world's greatest museum of art design and performance Entrance Admission free」と書かれた、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の入口案内板。
ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館のエントランス
薄暗い美術館の壁に設置された、光る館内案内板。フロアマップや展示情報が細かく表示されており、その手前には寄付箱とパンフレットが置かれている。
まるで迷宮の地図。広大な美術館のフロアマップ。

簡単な荷物チェックを済ませ、一歩足を踏み入れる。目に飛び込んできたのは、モダンなタイポグラフィで綴られた美術館の紹介サインと、その先に鎮座する巨大な館内マップ。それは地図というより、むしろこれから始まる冒険の舞台となる「迷宮」の設計図のように思えた。

 

迷宮探訪:V&A Museumの建築美に酔いしれる

この美術館は建物自体がアートピースである、という前評判を耳にしていた。だから僕は、セオリーを無視してエレベーターで一気に最上階へと向かった。その選択は正しかった。目の前に広がったのは、柔らかな自然光が降り注ぐ壮大な吹き抜けの空間。精緻な鉄骨とガラスが織りなす天井は、それ自体が息をのむほど美しいインスタレーションだった。

美術館の最上階から見下ろした吹き抜けの空間。天窓から明るい光が差し込み、手前の手すりには虹色の旗などが飾られている。
光が降り注ぐ、開放感あふれる美術館の吹き抜け。
美術館に展示されている、様々な種類の引き出しを不規則に積み重ねて作られた立体アート作品。
異なる時代とスタイルを持つ引き出しが積み重なった、ユニークなアートインスタレーション。
美術館の長い廊下。両側には陶磁器が並んだガラスケースが置かれ、天井は自然光が差し込むガラス張りになっている。
吹き抜けの天井から光が降り注ぐ、圧巻の陶磁器コレクション。
博物館の円形展示室。壁一面にカーブしたガラスケースが並び、イギリスの陶磁器が数多く展示されている。床はヘリンボーン柄で、天井はドーム状になっている。
圧巻のスケールで展示された、イギリスの陶磁器コレクション。

 

そこから階下へと歩を進める。陶磁器のコレクションが並ぶギャラリーは特に印象的だ。膨大な数の陶器が並ぶガラスケースの回廊。しかし、僕の視線は展示品よりも、アーチを描くガラス天井に釘付けになっていた。光が空間全体を優しく包み込み、静謐な時間を作り出している。主役は展示品なのか、それともこの光と建築なのか。そんな問いが頭をよぎる。

美術館の吹き抜け空間を下から見上げた構図。暗い壁に囲まれた空間の上に、円形の照明が美しい巨大な白いドーム天井が広がっている。
先に進むと現れた、荘厳なドーム天井の空間。
建物の吹き抜けを、木製の手すりがある上階から見下ろした写真。階下には白と黒の市松模様の床が広がり、数人の人が小さく見える。
下を覗いてみてもステキです。
美術館の長い展示室を下から見上げた写真。アーチ型のガラス張りの天井が特徴的で、自然光が室内に差し込んでいる。両脇には陶磁器が展示されたガラスケースが並び、床は寄木細工になっている。
主役は展示品?それとも、この美しい天井?
レンガの壁に囲まれ、ガラスの屋根から自然光が差し込む美術館の回廊。階下には美術品が展示されている。
途中の回廊もなんだか建物の中とは思えない作り。
高いアーチ型の天井を持つ美術館の内部。中央には彫刻が施された大きな木製の建造物があり、そのアーチの向こうに別の展示室が見える。
アーチの向こうに広がる、光と歴史の重なり
美術館のホールから階段を見下ろした景色。頭上には「MEDIEVAL & RENAISSANCE」の案内板があり、アーチ型の通路の先にはレンガの壁に囲まれた中庭と、そこに設置された木製の螺旋階段が見える。
アーチの向こうに広がる、歴史を感じさせる螺旋階段のある風景。

 

V&Aは、歩くたびにその表情を変える。ある場所では荘厳なドーム天井が現れ、またある場所では階下を覗き込むと美しい市松模様の床が広がる。レンガ造りの壁とガラス屋根が融合した回廊は、まるで屋外の路地を歩いているかのような錯覚に陥らせる。建物の中に、また別の建物が存在するような複雑な構造。螺旋階段を下り、アーチをくぐるたびに、新しい発見が待っている。この感覚こそ、V&Aが「迷宮」と称される所以なのだろう。

 

突如現れた巨大空間、キャスト・コートとトラヤヌスの柱

建築の迷宮に心を奪われながら歩みを進めていると、僕は突如として、信じられないほど巨大な空間に迷い込んだ。そこが「キャスト・コート」と呼ばれる場所だった。2フロアを貫く吹き抜けのホールに、古代からルネサンス期に至るヨーロッパ中の有名な彫刻や建築物の石膏レプリカが、所狭しと林立している。ミケランジェロのダビデ像も、フィレンツェのアカデミア美術館から抜け出してきたかのように、ここに佇んでいた。

ヴィクトリア&アルバート博物館のキャスト・コートを上から見下ろした写真。巨大なトラヤヌスの記念柱のレプリカ2本がそびえ立ち、床には数多くの棺や彫刻のレプリカが展示されている。
突如現れた巨大空間「キャスト・コート」。そのスケール感に圧倒される。
上階から見下ろした美術館の展示室。ミケランジェロのダビデ像のレプリカをはじめ、古代・ルネサンス期の彫刻や建築物の石膏像が数多く展示されており、来館者が見て回っている。
圧巻のスケールで並ぶ、古代・ルネサンス期の彫刻と建築の石膏レプリカ。

 

中でも、ひときわ異様な存在感を放つ巨大な円柱があった。見上げても、その全貌を捉えることができない。これが、今回の探訪のハイライトとなる「トラヤヌスの柱(Trajan’s Column)」のレプリカだった。オリジナルの柱は、ローマのフォロ・ロマーノに現存するダキア戦争の勝利を記念したもので、その表面には200メートル以上にわたる帯状のレリーフが螺旋状に刻まれているという。

美術館の広々とした展示室を見上げた様子。アーチ状のガラス天井から自然光が差し込み、壁にはヨーロッパの彫刻や建築のキャスト(複製品)が並んでいる。
天窓から光が降り注ぐキャストコート

 

V&Aは、このあまりに巨大な柱を館内に収めるため、なんと2つに分断して展示している。それでもなお、天井に届かんばかりの高さは、見る者をただただ圧倒する。19世紀、海外渡航が困難だった時代に、美術学生やデザイナーが偉大な作品を学ぶために作られたというこのレプリカ群。その歴史的背景を知ると、単なる模造品ではない、知の継承という壮大な使命を帯びた存在に思えてくる。天窓から差し込む光がレリーフの凹凸を浮かび上がらせる様は、神々しくすらあった。この空間に身を置くだけで、時空を超えてヨーロッパの芸術史を旅するような、濃密な体験ができるのだ。

 

V&A博物館の至宝、トラヤヌスの柱のレプリカ

美術館の高い吹き抜けの空間に立つ、トラヤヌスの柱の巨大なレプリカ。柱にはびっしりとレリーフが彫られており、ガラス張りの天井から光が差し込んでいる。
圧倒的な存在感を放つ、トラヤヌスの柱のレプリカ。

キャスト・コートの中心にそびえるトラヤヌス記念柱のレプリカは、v&a museumのコレクションの中でも特に巨大で、訪れる者に強烈な印象を残す。この石膏キャストは、1864年にナポレオン3世の命で作られたもので、オリジナルのディテールを驚くほど忠実に再現している。螺旋状に刻まれた2,500以上の人物像が織りなす戦いの物語は、近くで見れば見るほどその精緻さに驚かされる。なぜV&Aに?それは、ヴィクトリア朝時代における教育と啓蒙への情熱の証だ。世界中の偉大な芸術を、ロンドンの市民が学べるようにという壮大なビジョンが、この巨大なレプリカをここに呼び寄せたのだ。

 

ロンドンで必見の見どころ

ロンドンには数多くの博物館があるが、v&a museumのキャスト・コートは他に類を見ないユニークな見どころだ。一つの空間で、ヨーロッパ各地の至宝を原寸大で体感できる。トラヤヌスの柱はもちろん、フィレンツェのギベルティ作「天国の門」や、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の「栄光の門」など、名だたる傑作のレプリカが一堂に会する。建築や彫刻に興味がある者なら、一日いても飽きることはないだろう。まさに、時空を超えたグランドツアーを体験できる場所だ。

 

アートからポップカルチャーまで、V&Aの懐の深さ

薄暗い博物館の室内で、大きな窓の前に設置された黒い枠の中に、様々な形やデザインのステンドグラスが多数展示されている。窓からの光がステンドグラスを透過し、色鮮やかに輝いている。
窓からの光に照らされて、物語を語るステンドグラスのコレクション。
博物館の青緑色の壁を背景に、ガラスケースの中に展示されているスター・ウォーズのストームトルーパーの全身コスチューム。ブラスターライフルを手に持っている。背景にはコンセプトアートのスケッチが見える。
博物館で遭遇したストームトルーパー

キャスト・コートの衝撃から覚め、再び迷宮へと戻る。V&Aの魅力はその多様性にもある。光を通して幻想的な物語を紡ぐステンドグラスのコレクションに心酔したかと思えば、次のコーナーでは全く毛色の違う展示が待っていた。映画や演劇の衣装を集めたセクションで、僕が遭遇したのは、なんとスター・ウォーズのストームトルーパーだった。古代の彫刻から最新のポップカルチャーまでを同列に扱い、デザインの文脈で語る。この懐の深さこそが、V&Aを「アート、デザイン、パフォーマンスにおける世界最高の博物館」たらしめているのだろう。

 

V&A と は?その本質に迫る

ヴィクトリア&アルバート博物館、通称V&Aは、1852年に設立された国立博物館だ。そのコレクションは、絵画、彫刻、写真、テキスタイル、宝飾品、建築、家具など、古今東西の装飾美術やデザインを網羅し、収蔵品は数百万点に及ぶ。「V&A と は」と問われれば、それは単なる美術品の収蔵庫ではない。人類の創造性の歴史を記録し、未来のデザイナーやアーティストにインスピレーションを与えるための、生きたアーカイブなのだ。入場無料という開かれた姿勢も、その理念を体現している。

 

V&a museum event:常に新しい発見がある場所

僕が訪れた時はカルティエの特別展が開催されていたように、V&Aでは常に刺激的な企画展やイベントが催されている。「V&a museum event」をチェックすれば、ファッション、写真、現代アートなど、多岐にわたるテーマの展示が見つかるだろう。僕が当初目指していたデヴィッド・ボウイ展のように、大きな話題を呼ぶイベントも多い。訪問前には必ず公式サイトで最新情報を確認し、興味のあるイベントがあれば事前予約を試みることをお勧めする。

 

ミュージアムショップと次の街へ

旅の締めくくりは、ミュージアムショップだ。期待に胸を膨らませて足を踏み入れると、店内は開催中のカルティエ展とのコラボグッズで埋め尽くされていた。ダイヤモンドの薔薇がプリントされたトートバッグや豪華なカタログが並ぶ様は壮観だったが、残念ながら今回は僕の琴線に触れるものはなく、静かにお見送りとなった。

カルティエ展を記念した特設ミュージアムショップの店内。黒いディスプレイには、ダイヤモンドの薔薇やフラミンゴといったジュエリーのグラフィックが大きく飾られ、関連書籍やトートバッグなどのグッズが並んでいる。
ミュージアムショップはカルティエ展の記念グッズでいっぱい。

 

さて、知的な冒険でお腹はもういっぱいだ。そろそろ生のカルチャーに触れたい。この近くには、伝説的なコンサートホール「ロイヤル・アルバート・ホール」がある。そこを横目に、僕はノッティング・ヒルのあのレコードショップを目指して、再びロンドンの街へと歩き出すことにした。

 

ヴィクトリア&アルバート 博物館 お土産とV&A グッズ

V&Aのミュージアムショップは、デザインの宝庫だ。定番の「ヴィクトリア&アルバート 博物館 お土産」としては、ウィリアム・モリスのパターンをあしらった小物や、展示品からインスピレーションを得たアクセサリーが人気。洗練されたデザインの「V&A グッズ」は、日常にアートを取り入れたい人にとって最高の選択肢となるだろう。特別展に合わせた限定グッズも多く、僕が訪れた際のカルティエ展のように、その時々で全く違う顔を見せるのも魅力だ。

 

V&a トートバッグ:デザイン性の高い定番アイテム

ロンドンの街を歩いていると、V&Aのロゴが入ったトートバッグをよく見かける。「V&a トートバッグ」は、もはや定番のお土産アイテムの一つだ。シンプルなロゴデザインのものから、企画展と連動したグラフィカルなものまで種類は豊富。丈夫で実用的なだけでなく、持つだけで知的な雰囲気を演出できる。自分用にも、友人へのギフトにも最適な一品だ。

 

V&A ブランドとしての魅力

V&A ブランド」は、歴史と革新性を兼ね備えた、世界でも有数のミュージアムブランドだ。そのライセンス商品は多岐にわたり、世界中の企業とコラボレーションしている。壁紙、文房具、ファッションアイテムなど、V&Aの膨大なアーカイブから着想を得た商品は、どれもクオリティが高く、デザイン性に富んでいる。単なるミュージアムグッズを超えた、一つのライフスタイルブランドとして確立されているのだ。

 

V&A 生地:クリエイター心を刺激する素材

手芸やデザインが好きな人なら、「V&A 生地」のコレクションは見逃せない。特にウィリアム・モリスをはじめとするアーツ・アンド・クラフツ運動のデザインを復刻したファブリックは、世界中にファンを持つ。V&Aのアーカイブに所蔵されている貴重なテキスタイルデザインを元に作られた生地は、小物作りからインテリアまで、創造意欲をかき立ててくれるだろう。

 

V&A オンラインで旅の後も楽しむ

ショップで買い逃したものがあっても、あるいは現地に行けなくても、V&Aの魅力に触れることは可能だ。「V&A オンライン」ストアでは、書籍、プリント、宝飾品、ホームウェアなど、幅広い商品を世界中から購入できる。また、オンラインコレクションでは収蔵品の一部をデジタルで閲覧することもでき、知的好奇心を満たすための素晴らしいリソースとなっている。

 

【まとめ】今回のv&a museum探訪を振り返って

当初の計画が崩れたことから始まった、v&a museumとの予期せぬ濃密な時間。それは、展示品を順路通りに見て回るという行為を超え、光と影が織りなす建築空間を彷徨い、時を超えた人間の創造性に圧倒されるという、まさに「体験」そのものだった。特にキャスト・コートで対峙したトラヤヌスの柱のレプリカの威容は、脳裏に焼き付いて離れない。ここは、訪れるたびに新たな発見がある、知の迷宮だ。ロンドンを訪れるすべての旅人に、この時空を超える冒険をお勧めしたい。

Official site: https://www.vam.ac.uk/south-kensington

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