【ロンドン自然史博物館】恐竜とクジラに出会う、大聖堂のような美の殿堂へ。予約方法や見どころ完全ガイド

ロンドンの空は気まぐれだ。先ほどまで晴れていたかと思えば、急に厚い雲が垂れ込める。しかし、そんな天候さえもドラマチックな演出に変えてしまう場所がある。それが、サウス・ケンジントンにあるロンドン自然史博物館だ。
少し前に訪れた大英図書館でビートルズの手書きの歌詞に心を震わせた後(その時の様子はこちら:大英図書館訪問記)、僕は迷わずこの場所を目指した。

 

きっかけは、実は単純だ。以前、日本のテレビ番組「アナザースカイ」で、元日本テレビアナウンサーの桝太一さんがこの場所を訪れていたのを見たからだ。桝さんは現在、科学コミュニケーションの世界で活躍されているが、彼が画面越しに目を輝かせて語る姿が強烈に印象に残っていた。正直に告白すれば、彼がウェンブリー・スタジアムを訪れた際のBGMがOasisの『Little by Little』だったことに惹かれて番組を見ていただけなのだが、人の熱量というのは伝播するものだ。あのキラキラした表情の源泉を、僕もこの目で確かめたかった。

 

地下鉄を抜けると、そこはジュラシック・パーク?

 

地下鉄のサウス・ケンジントン駅から長い地下通路を歩く。ロンドンの地下鉄特有の匂いと喧騒を抜け、地上への階段を上がると、そこには別世界が待っていた。

ロンドン自然史博物館の壮麗な建物を背景に、庭園(エボリューション・ガーデン)に展示されている巨大なディプロドクスのブロンズ骨格像
地下鉄からの通路を抜けると、自然史博物館の庭園で巨大な恐竜がお出迎え

目の前に現れたのは、歴史を感じさせる重厚な建物と、その庭園で待ち構える巨大な恐竜(ディプロドクス)のブロンズ像。エボリューション・ガーデンと呼ばれるこの庭は、まるで太古の森に迷い込んだような錯覚を覚えさせる。「博物館に来た」というよりは、「冒険が始まる」という予感に胸が高鳴る瞬間だ。

青空の下にそびえ立つ、2つの塔とアーチ型の入り口を持つロンドン自然史博物館の壮大な正面外観
まるで大聖堂のような荘厳な佇まいを見せる、ロンドン自然史博物館のエントランス。

そして、視線を上げればこの建築である。1881年に開館したこの建物は、アルフレッド・ウォーターハウスによる設計で、ロマネスク様式を取り入れたその姿は「自然の大聖堂」と称されるのも納得の威容を誇る。テラコッタの装飾、高くそびえる塔、アーチを描くエントランス。科学を展示する場所でありながら、信仰の場のような神聖ささえ漂わせている。

 

ヒンツェ・ホール:希望という名のクジラ

 

今回は予約をせずに訪れた。週末ということもあり少し不安だったが、幸いにも10分ほどの待ち時間で入館できた。セキュリティチェックを抜け、重厚な扉をくぐると、そこはまさしく「大聖堂」の身廊のようだった。

アーチ天井の博物館ホールに展示されたキリンの剥製と骨格標本
博物館のエントランスホールで出迎える、キリンの剥製と骨格標本の共演

エントランスホールでは、まずキリンがお出迎えしてくれる。面白いのは、剥製と骨格標本が並んで展示されていることだ。「生きている姿」と「その構造」。この博物館が伝えたいメッセージが、最初の一歩から明確に提示されている気がする。

ロンドン自然史博物館のヒンツェ・ホールに吊るされた巨大なシロナガスクジラの骨格標本と、その下を行き交う人々
ロンドン自然史博物館のエントランスで出迎える、圧巻のシロナガスクジラの骨格標本

そして、息を呑むのが頭上だ。ヒンツェ・ホール(Hintze Hall)の中央、高い天井から吊り下げられているのは、巨大なシロナガスクジラの骨格標本「Hope(ホープ)」。かつてここにはディプロドクスの骨格「Dippy」が鎮座していたが、現在は海へと回帰し、地球環境保護のシンボルとして来館者を見下ろしている。

 

全長25メートル。その圧倒的なスケール感は、写真では伝えきれない。僕は迷わず正面の大階段を上がり、2階(First Floor)のバルコニーへと向かった。ここから見ると、まるでクジラが歴史的な建築空間の中を遊泳しているかのような、幻想的な光景が広がる。

自然史博物館の館内全体マップ。色分けされたゾーンとフロア構成が描かれた案内板
広大な館内を示す全体マップ。4つのゾーンに分かれていますが、一度に覚えるのは難しい規模です。

ここで一度、全体像を把握しようとマップを確認した。館内は「ブルー」「グリーン」「レッド」「オレンジ」の4つのゾーンに分かれている。しかし、あまりの広さと展示の多さに、一瞬で全てを把握するのは諦めた。今回のミッションは明確だ。「恐竜」、「ブルーホエールの模型(骨ではなく)」、そして「宝石」だ。足の向くまま、知的好奇心の羅針盤に従おう。

 

ダイナソー・ギャラリー:太古の覇者たちとの邂逅

 

まずは、ロンドン自然史博物館の代名詞とも言える「ダイナソー・ギャラリー(恐竜展示)」へ。ブルーゾーンにあるこのエリアは、常に人気で人だかりが絶えない。

自然史博物館のホールにあるオレンジ色の「Dinosaurs(恐竜)」案内看板と、展示に入場するために並ぶ人々。
博物館で最も人気のある「恐竜」展示エリアへの入り口。

一歩足を踏み入れると、そこはクリエイティブな展示空間だった。単に骨を並べるだけでなく、空間を立体的に使っているのが特徴だ。

博物館の装飾的な天井から吊り下げられた、長い首を持つ巨大な恐竜の全身骨格標本
頭上も見逃せない!天井いっぱいに広がる迫力の恐竜骨格展示

ふと見上げれば、頭上の通路にも恐竜の骨格が展示されている。上下左右、どこを見ても太古の生物たちがひしめき合っているのだ。この「密度」が、当時の生態系の豊かさを物語っているようで面白い。

 

ロンドン自然史 博物館 恐竜

 

このギャラリーのハイライトは、なんといっても動くT-Rex(ティラノサウルス)だろう。薄暗い展示室の奥で、リアルな咆哮とともに動くその姿は、子供だけでなく大人も興奮させる。

クリスマスセーターとサンタ帽子を身に着けた巨大なティラノサウルスの展示
サンタ帽子とクリスマスセーターでめかしこんだ、迫力満点のT-Rex!

訪れたのが12月だったこともあり、なんとT-Rexはクリスマス仕様におめかししていた。サンタ帽子に特大のクリスマスセーター。獰猛な捕食者が急に愛らしく見えてくるから不思議だ。こうしたウィットに富んだ演出も、イギリスらしいユーモアを感じさせる。

自然史博物館のアーチ天井から吊り下げられたステゴサウルスの全身骨格標本
ロンドン自然史博物館で見上げる、宙に浮くステゴサウルスの迫力ある骨格
自然史博物館のホールで展示されている巨大な首長竜の骨格標本
博物館の壮大な建築と巨大な恐竜の骨格

もちろん、学術的な展示も充実している。ステゴサウルスやトリケラトプスといった有名な恐竜たちの全身骨格は、その造形美にため息が出る。「いやーすごいな……」と、ボキャブラリーを失うほどの迫力だ。

ガラスケースの中に展示された、岩盤に埋まった状態のエドモントサウルスの全身化石
発掘された当時の姿をそのまま残す、岩に埋もれたエドモントサウルスの展示。

特に印象的だったのは、岩盤に埋まったままの状態のエドモントサウルスの化石展示だ。綺麗に組み立てられた骨格もいいが、こうして発掘された瞬間の姿を見ると、数億年という時間の重みと、それを発見した研究者たちの執念のようなものを肌で感じる。

 

哺乳類ホール:もう一つの「クジラ」

 

恐竜でお腹いっぱいになりそうだが、まだ見逃せないものがある。それが「哺乳類の部屋(Mammals Hall)」にある、もう一つの巨大クジラだ。

博物館の天井の高いホールに吊るされた、巨大なシロナガスクジラの実物大模型とクジラの骨格標本
圧倒的なスケール!哺乳類展示室のハイライト、宙を泳ぐシロナガスクジラ

ヒンツェ・ホールの「Hope」は骨格標本だが、こちらは実物大の模型。これがとてつもなくデカい。「いやー、でかすぎる。クジラさん」と、独り言が漏れてしまう。

博物館のホールに展示された、圧倒的な存在感を放つ巨大なシロナガスクジラの実物大模型の正面アップ
博物館のホールを圧巻する、大迫力のシロナガスクジラの実物大模型

骨格を見た後に、肉付けされた模型を見ることで、その生物としてのボリューム感やリアリティが脳内で補完される。この二つのクジラを見比べる体験こそ、ロンドン自然史博物館ならではの醍醐味かもしれない。

 

宝石と鉱物:地球が生んだアート

 

最後に訪れたのは、「The Vault」と呼ばれる宝石と鉱物のギャラリーだ。ここは、これまでの展示とは空気が一変する。静寂の中に、地球が生み出した奇跡のような結晶たちが輝いている。

博物館の宝石コレクション展示室。装飾された高い天井と石造りの柱、並ぶ展示ケースを見学する人々。
建築美も見どころの宝石コレクション展示室。高い天井と自然光が開放的な空間を作り出しています。

長い回廊に整然と並ぶ木製の展示ケース。ここもまた、建築と展示が一体となった美しい空間だ。奥に進むにつれて、より希少な宝石たちが姿を現す。

博物館のガラスケースに展示された、色とりどりの希少な宝石や鉱石の標本
博物館の奥で見つけた、輝く希少な宝石たちの展示コーナー

色とりどりの原石は、自然界にこんなにも鮮やかな色が存在するのかと驚かされる。特に目を引いたのは、パラサイト隕石の展示だ。

博物館の展示ケース内で神秘的に輝く巨大なパラサイト隕石の断面と、ガラスドームに収められた複数の小さな隕石標本
暗闇の中で宝石のように輝くパラサイト隕石と、太陽系の歴史を物語る希少なコレクション。

バックライトに照らされたその断面は、ステンドグラスのように神秘的に光り輝いていた。宇宙から飛来した石が、こうしてロンドンの博物館で輝いている。そのロマンに浸っていると、時間が経つのを忘れてしまいそうだ。

 

カフェとショップ、そして次の目的地へ

 

途中、カフェで休憩しようと試みたが、土曜日ということもあり大変な混雑だった。

歴史的なレンガ造りの建物内にある混雑したカフェのカウンターと、高い天井から吊るされた円筒形の照明、注文を待つ人々の列
休憩しようと思ったらすごい人!歴史ある空間でのカフェタイムは大人気のようです。

カフェ自体も歴史的な空間の中にあり、雰囲気は抜群なのだが、今回は断念。もしカフェを利用したいなら、オープン直後か、お昼時を外した時間を狙うのが賢明だろう。

クリスマス装飾が施された自然史博物館のミュージアムショップのアーチ型入り口と、出入りする人々
荘厳なアーチの下にあるミュージアムショップも、華やかなクリスマス仕様にデコレーションされています。「Dinos Not Allowed(恐竜立ち入り禁止)」の看板がユーモラスです。
ロンドン自然史博物館のギフトショップ内観。装飾的な天井や柱に囲まれた空間に、恐竜のぬいぐるみやボードゲームなどのお土産が棚いっぱいに並んでいる。
歴史的な建築美と恐竜グッズの宝庫!自然史博物館のミュージアムショップ。

帰りに立ち寄ったミュージアムショップは、恐竜グッズの宝庫だった。ぬいぐるみから知育玩具まで、ところ狭しと並んでいる。今回はビビッとくるものがなく購入は見送ったが、子供へのお土産や、自分用のアートなグッズを探すには最適な場所だ。

 

CityNomixの旅のTips:ロンドン自然史博物館 攻略ガイド

 

最後に、これから訪れる方のために、実用的な情報をまとめておこう。

 

ロンドン自然史 博物館 予約 方法

 

ロンドン自然史博物館は入場無料だが、公式サイトからの事前予約(無料チケットの取得)が推奨されている。僕は予約なしで突撃したが、運よく10分程度の待ち時間で入れた。しかし、混雑時には長時間並ぶこともあるため、スケジュールが決まっているなら予約しておくのがベターだ。公式サイトの「Book tickets」から日時を指定するだけで簡単に予約できる。

 

ロンドン自然史 博物館 公式

 

最新のイベント情報や開館時間の変更などは、必ず公式サイトでチェックしてほしい。
👉 Natural History Museum Official Website

 Google Map:

ロンドン自然史 博物館 所要時間

 

館内はとにかく広い。駆け足で主要な展示(恐竜、クジラ、ヒンツェ・ホール)を見るだけでも2時間は見ておきたい。じっくり解説を読んだり、カフェで休憩したりするなら、半日(4時間程度)は必要だ。僕のようにポイントを絞って回るのが、疲労困憊にならないコツかもしれない。

 

ロンドン自然史 博物館 ナイトミュージアム

 

映画のような体験をしたいなら、「Dino Snores」と呼ばれるお泊まりイベント(ナイトミュージアム)をチェックしてみてほしい。博物館に宿泊し、夜の展示ツアーやイベントを楽しめる特別なプログラムだ。大人向けと子供向けがあり、すぐに予約が埋まるほどの人気イベントとなっている。

 

ロンドン自然史博物館 ポケモン

 

以前、ゴッホ美術館とのコラボが話題になったが、ロンドン自然史博物館もポケモンとの親和性が高い。2024年には、ポケモンのアート展示などのイベントが行われることもあった。常設ではないが、現実の生物からインスピレーションを得たポケモンたち(例えば、化石ポケモンと実際の化石)を重ね合わせて展示を見るのも、現代的な楽しみ方の一つだ。

 

ロンドン 自然 史 博物館 映画

 

この博物館は映画『パディントン』で、ニコール・キッドマン演じる悪役ミリセントが働く場所として登場する。また、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』の舞台の一つでもある。映画を見てから訪れると、「あ!ここはあのシーンだ!」という発見があり、楽しさが倍増するはずだ。

 

ロンドン自然史 博物館 グッズ

 

ショップでは、やはり恐竜グッズが圧倒的な人気を誇る。個人的なおすすめは、博物館オリジナルのトートバッグや、美しい鉱物の図鑑など。デザイン性が高く、普段使いできるアイテムも多い。

 


ロンドン自然史博物館は、単なる知識の集積所ではない。地球の歴史、生命の神秘、そして人類の知的好奇心を、圧倒的な建築美の中で体験できるエンターテインメント空間だ。もしロンドンに行くなら、絶対に旅のリストに入れてほしい。

 

さて、知的好奇心が満たされた後は、すぐお隣にある「V&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)」へ向かうとしよう。ロンドンのカルチャー探索は、まだまだ終わらない。

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